【2024.2.11】エレーヌ・グリモー(ピアノ) 公演感想 @コーナー・ホール(トロント)

コンサート日記
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こんにちは。いりこです。
2月11日(日)コーナー・ホール(トロント)にて行われた、エレーヌ・グリモーのピアノソロ公演に行ってきました。

トロントでのコンサート第2弾♪
注目のピアニスト×プログラムで気合が入ります。

▼TTC地下鉄セント・ジョージ (St George) 駅から徒歩5分、コートクロークは4ドル

会場に入ると、ロビーでは開場までソプラノ歌手の方のミニリサイタルがあっていました!こういうの間に合ったことなかったので贅沢な気持ちになりました。

▼カナダはどこに行ってもグールドの名前がありそうです

▼リスト先生とバルトーク先生

エレーヌ・グリモー

エレーヌ・グリモーはフランス出身のピアニスト。1969年に生まれた彼女は幼少期から才能を示し、13歳でパリ国立高等音楽に入学、その後も卓越した技巧、深い音楽性、そして独特の解釈でクラシック音楽界において独特の地位を築いています。

レパートリーは幅広いですが、祖国フランスものの録音は少なく、特に印象的なのがブラームス。

質実剛健・構造的でスケールの大きなソナタや協奏曲ですが、なんといいますか、力強さは男性顔負け、さらに随所にちりばめられる「母なる大地」感、優しさとパッション包まれるんです。

ブラームスの他には、バルトークの協奏曲3番なんかは最高のデトックスです。

また、グリモーは音楽だけに留まらず、動物生態学を学び本も執筆するなど、自然への深い関心も持ち合わせており、その背景も彼女の演奏に独特の深みを与えているとも言われています。なるほど納得です。

プログラム/チケット情報

2024年2月11日(日) 15:00開演 コーナー・ホール(トロント)

プログラム 

  • ベートーヴェン:ピアノソナタ第30番 ホ長調 Op.109
  • ブラームス:3つの間奏曲 Op.117
  • ブラームス:7つの幻想曲 Op.116
  • J.S.バッハ/ブゾーニ:「シャコンヌ」 無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番 ニ短調 BWV1004 から

「ドイツ3B」こと、バッハベートーヴェンブラームスが並ぶ胸アツのプログラムとなっています。彼女の真骨頂。

プログラム構成も美しい。
緩急の感じとか順番とか、4つで1つの作品のようです。妄想だけでご飯が進みます。

チケット 

Premium: $125(カナダドル、約13,750円)
Price Level 1: $105(約11,550円)
Price Level 2: $85(約9,350円)
Price Level 3: $75(約8,250円)
Price Level 4: $50(約5,500円)

ベートーヴェン:ピアノソナタ第30番 ホ長調 Op.109

40分にも及ぶ大伽藍のソナタ29番「ハンマークラヴィーア」を世に送り出した後、もう1段ステージを上がってしまったベートーヴェンが取り掛かったのが、後期三大ソナタと呼ばれる30~32番の3曲です。

全集など通して聞いていると、30番以降で世界が変わるのが体感できます。

その1曲目、ソナタ30番
前作と比較すると圧倒的に音数が少ない、単音の交差。しかし印象に残る付点のリズムで、この楽章の大部分を構成します。

そして何といっても、曲中最も重点の置かれた第3楽章、変奏曲。主題は穏やかで祈るような旋律には神々しさすら感じます。

ずーっと素晴らしいですが、好きなのはやはり最終第6変奏
主題のような穏やかな曲想から始まりますが、次第に音が細分化され、動きが大きくなります。両手でのトリルの応酬、ボルテージも最高に達しますが、突然穏やかな主題に戻り、夢の世界から帰ってきたところで、静かに曲を閉じます。

さて、グリモー姐さんが登場。立ち姿から凛としていてもう美しい、かっこいい。
演奏は、シンプルな曲想にマッチする、地に足がついた音色でとても理知的に響きます。

と思ったのも束の間、2楽章以降は熱のこもった演奏。
全体的に速めのテンポでバリバリと弾き進めます。

「地に足がついた音」と感じたのは、低音が意識的に強調されていたから、のように思います。

あとは全体的にテンポ速め。料理は熱々のうちに食べてほしいという趣なのか、自分の中の音楽を早く再現したいのか、あるいはただ早く終わらせたいだけなのか、笑。

ブラームス:3つの間奏曲 Op.117

ブラームスのピアノソロ作品は、作曲家人生の最初と最後に固まっていることで有名です。そして晩年の作品は大規模なものはなく、彼の内省的な特徴が凝縮された小品が並びます。

シンプルながら一言で表せない妙を備えるメロディたちが魅力の小品集です。

と、難しいことを考えなくても、この第1番のなんと美しいこと。
グリモーの温かい音色が存分に活きた演奏でした。

アルペジオから浮かび上がる旋律が印象的な2番
明るい表情と暗い響きを行ったり来たり、詩の朗読を聴いてるみたい。

3番は完全に短調。
物憂げだが早めのテンポもありそこまで鬱々とは響かない。感情の起伏も激しく、「独り言」を聞いている感覚になります。この曲集が「諦観」のようなもので締めくくられるのが趣深いです。

先ほどのベートーヴェンから、やはり低音が強調されているように感じます。
おかげで、孤独で不安定な曲たちのバランスをとってあげています。

ブラームス:7つの幻想曲 Op.116

晩年のピアノ小品集の口火を切った作品。実に12年ぶりのピアノソロ作品。3つの奇想曲(カプリッチョ)と4つの間奏曲(インテルメッツォ)からなります。

休憩をはさみ、登壇するやいなや弾き始めた第1番奇想曲
若い作品を彷彿とさせる情熱的な幕開けです。

それにしても、今日全体通してサクサクと弾き進めます。
まるで旬の短い食材を無駄にしまいとむさぼるような野性味すら感じます。

第2番は、タイトル「幻想曲」を回収するような間奏曲。
第3番奇想曲も、パッションに満ちた作品。作り物のように美しい中間部との対比でより孤独感が際立ちます。
第4番、ノクターン風。救いのある長調の曲想だが、最初に提示される満たされない動機が印象的。
第5番、どうにも足踏みで前に進めない曲。中間部も美しいながらどうにも浮かばれない孤独感のようなものが支配します。
第6番、4番に似た優しい温かみがあるが、どこか重たく引きずって歩いている光景。
終曲も奇想曲。突き上げられるような熱量が特徴的だが、それによって中間部の嘆きが強調されます。

奇想曲のようなパッションも、間奏曲のような複雑な味も見事に表現していました。

そして!終曲カプリッチョから間髪入れずにシャコンヌへ。ここシビれました!

J.S.バッハ/ブゾーニ:「シャコンヌ」 無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番 ニ短調 BWV1004 から

終曲カプリッチョからそのままシャコンヌ!アタッカ!!

「シャコンヌ」とは、舞曲の一つで、反復のうえで変奏が次々と行われる曲(すみません、よく分かりません)。ヴァイオリン界で「シャコンヌ」というと、このバッハのパルティータ第2番終曲が思い浮かぶそうで、ヴァイオリン曲としても非常に重要な作品。

そして、バッハの楽譜校訂者として有名だった、そして悪魔的と評されるほどのピアノの腕を持つブゾーニが編曲したものがこの「シャコンヌ」です。

ヴァイオリンの可能性を最大限生かした原曲に、ピアノの可能性を最大限に引き出すよう編曲を施しており、ドでかい教会に入ったときに感じる畏怖のようなものを感じます。

前曲の幻想曲の熱量そのままに、バリバリ弾き進めていくグリモー。
速い速い。この難曲をあのスピード感で弾きこなせるだけでもお見事ですが、なにか強迫めいたものすら感じます。

しかし旋律はやはりバッハ。
特に後半現れる神々しいまでの祈りの旋律は、ここまでのカオス(いい意味で)との対比で非常に美しく、印象に残りました。

最後は、あの最初の主題を荘厳に再現、ほんとに一人で弾いている?てくらい音が鳴ってました。お見事。。。。。

・・・・

全体をとおして、何か鬼気迫る熱量を感じました。

しかし素の彼女は、とにかく丁寧にお辞儀をしてくれたのが印象的で、後ろや横側の観客にも毎回お辞儀をしていました。

そして全身キラキラのパンツスーツ、あの独特の髪型にも磨きがかかっており、何より立ち姿や歩き姿が凛としていてとても美しかったです。

すべて込みで、彼女にしかできないステージ演出でした。

アンコール

  • シルヴェストロフ:バガテル第2番

重厚で情熱的な曲が並んだあとの、優しい小品。
民族的なリズムとメロディがスゥーっと耳に染みわたります

拍手に夢中でうまく取れなかった。。。

さいごに

長々と書いてしまいましたが、お読みいただきありがとうございました。

このコンサートは、日本にいる数少ないクラ友(クラシックの話ができる友達)が、私がトロントに渡航する際にプレゼントしてくれたものでした。しかもコンサート自体もすばらしかったので、とても特別な思い出です。

なんと!グリモーは2024年9月に日本公演で協奏曲を演奏予定となっています。しかも愛に満ちたシューマンの協奏曲です!!ぜひ足を運んでみてください!

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