2021年ショパンコンクールを振り返る(更新中)~ガルシア・ガルシア/小林愛実/クシュリク/アルメリーニ/ラオ・ハオ~

ショパン国際ピアノコンクール
©︎W. Grzędziński / The Fryderyk Chopin Institute
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※7/23追記 ラオ・ハオ
※7/21追記 ガルシア、小林愛実

こんにちは。いりこです。

2025年、いよいよ第19回ショパン国際コンクールが動き始めました!
4月23日からはワルシャワで予備予選が開始、応募総数642名から、書類・音源審査を通過した164名が参加し、80名程度まで絞られます。

そんな世界最高峰のピアノコンクール、2025年本大会が待ちきれませんので、過去の大会を振り返ってみたいと思います。

前回というか初回は「2010年、第16回大会がどれだけ贅沢だったのかを改めて実感しよう」という趣旨で入賞者の演奏を聞いてみました。上位陣にはアヴデーエワゲニューシャストリフォノフらが名を連ねるハイレベルな大会でした。

今回は、直近2021年第18回大会を振り返っていきます。
未曽有のパンデミックによる1年の延期を経て、世界中のピアノファン待望のなか開催された大会です。

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2021年ショパンコンクールを振り返る

ポーランド、ワルシャワで5年に1度行われる「ショパン国際ピアノコンクール」
言わずと知れた世界一のピアノコンクールですが、2021年はコロナにより1年延期されての開催でした。

入賞者は以下のとおり。

第1位:ブルース・(シャオユ)・リウ(24歳、カナダ)
第2位:反田 恭平(27歳、日本)
    アレクサンダー・ガジェヴ(26歳、イタリア/スロベニア)【ソナタ賞】
第3位:マルティン・ガルシア・ガルシア(24歳、スペイン)【コンチェルト賞】
第4位:小林 愛実(26歳、日本)
    ヤクブ・クシュリク(24歳、ポーランド)【マズルカ賞】
第5位:レオノーラ・アルメリーニ(29歳、イタリア)
第6位:J J ジュン・リ・ブイ(17歳、カナダ)
番外編(ファイナリスト):ラオ・ハオ(17歳、中国)

なんといっても日本から反田・小林が2人も入賞!
そして反田は、内田光子以来の日本人最高位タイとなり、さらにその後、反田小林は結婚され話題となりました。

コロナ禍の鬱憤もあってか、優勝したブルース・リウ、2位反田、3位のガルシア、5位のアルメリーニと、明るい音楽性をもつピアニストが多い印象。

こうみるとキャリア・年齢的にも中堅というか、安定していてレベルの高い大会でしたね。また他のコンクールを見ていると、やはりこの大会のレベルの高さに着地するようになった気がします。

第3位:マルティン・ガルシア・ガルシア(24歳、スペイン)

クルクル頭表情豊か、(グールド以来の?)録音にも入ってくる鼻歌、そしてゆったり目のテンポで独特な演奏でミスタッチもなんのそのと、ぱっと見の話題も尽きないピアニストです。

次に入ってくるのがその明るい音色ただ、表情豊かな演奏スタイルも相まって「スペイン」「太陽」といった形容詞が付きがちなのが、本人としては不服だというXのポストも見かけました。

いったん外面的な特徴を一通り楽しんで慣れてしまって(笑)演奏を聴き込んでいくと、真摯に音楽に向き合っている姿勢がよく伝わってきます。小品ももちろん素敵なのですが、本選の協奏曲をはじめ、リスト「ロ短調ソナタ」やシューマン「交響的練習曲」など大曲でこそ彼の器量が発揮されるように思います。「底抜けに明るい!楽観!」というより、人間らしい感情・清濁を全部飲み込んで受け止めてくれるような、「あなたはそのままでいいんだよ」と言ってくれているような大きさを感じます。

本人としては表面以外も聴いてほしいよということなのでしょうかね。

とはいえ彼の音色は魅力的。1次予選ノクターンの1音目なんか、スコーンと体を貫かれる速度を感じますし、比較的地味な協奏曲ヘ短調もいろんなニュアンスがこもった素晴らしい演奏ですが、やはり終楽章のキラキラ感が強く印象に残ります。

聴くたびに新しい魅力に気づかされる、なんとも沼が深いピアニストです。

ガルシアのおすすめ曲

  • ピアノ協奏曲ヘ短調(2番)

名演ばっかりで悩むのですが、なんといってもファイナルで披露し、【協奏曲賞】を獲得した演奏。今まで聴いてきたどの名盤とも違う、こんなリズム・メロディーがここにあったんだという発見の連続です。

相変わらずミスタッチは多いんですけども笑、それがいいような躍動感や焦燥感の演出になっています。そして基本的にゆっくり目、おとなしめの演奏で、ここぞという時に炸裂するフォルテが効いています。お客さんの拍手のフライングも凄まじく笑、これは優勝あるかもと思った瞬間でした。

他にも上述した1次予選のノクターン 変ホ長調 Op.55-2、3次のマズルカ Op.55も絶品だったと思います。

とはいえ、“普通の”演奏は少ないので、ハマらない曲はハマらないのですが、体感9割はハマります。

▼2021年ショパンコンクール録音 – ガルシア:ピアノ協奏曲2番 -3楽章

▼YouTubeプレイリスト – 2021年ショパンコンクール全曲(ガルシア)


第4位:小林 愛実(26歳、日本)

日本人としては2005年以来の入賞、これだけで快挙ですが、前回2025年大会もファイナリスト、同じく前回ファイナリストも何名か出場していましたがファイナルまで残っていませんので、連続ファイナリストというのもなかなかの快挙です。

音色はなめらかというかシームレス。このシームレスさが、渦のように体にまとわりついて持っていかれるような、そんな推進力・説得力があります。

全体的にデュナーミクの幅は小さめというか、轟音鳴り響くタイプではないですけど、その音量幅の中の層の細かさが統制されていて、とても重層的でバラエティ豊かに聞こえる不思議。

第1ラウンドでは椅子でごたごたしていましたが、ほんとに合ってなかったんだなと分かるくらいまったく第2ラウンドは別次元の完成度。コンクールのレベルではありませんね。

小林のおすすめ曲

  • 24の前奏曲

やっぱり圧巻は3次予選の前奏曲集!

ソナタ2番、3番またはこの前奏曲全曲のうちから一つ選択する必要があったのですが、そもそも前奏曲を選ぶ参加者は極端に少ないんですよね。

単純に長い、これと課題曲マズルカを弾いたら時間いっぱいになってしまいます。そして小品の集まりなのでこれを説得力もって聴かせるのもハードルが高い。という中でわざわざ選択する人が少ないんだと想像しています。

筆者は特に17番が印象に残っていて、小林さんの演奏でこの17番が一番好きな曲になりました。ほんとうにp, pp, ppp, ppppという狭い幅の中で強弱を弾き分けている感じというか。ただただ美しく涙腺が熱くなります。

協奏曲でのダイナミックさや、技巧的な派手さはないので物足りないレパートリーもあるのはあります。

▼2021年ショパンコンクール録音 – 小林:24の前奏曲 – 17番

▼YouTubeプレイリスト – 2021年ショパンコンクール全曲(小林)


第4位:ヤクブ・クシュリク(24歳、ポーランド)

この記事を書くにあたって6位から聴いているのですが、ダントツでひじょ~に安定しています。特別賞の【マズルカ最優秀演奏賞】を受賞しています。

柔らかい包容力のある音色、安定した技術、クセも少なく安心して聴ける感じです。

地元ポーランドの大声援もありましたが、それを抜きにしても、音色の美しさ、安定した技術、大曲や舞曲で見せる深い音楽性、すべてが武器になるピアニストだと感じました。ほんとにただただCD録音を聴いているみたい。ピアノソナタ3番、協奏曲まで乗りこなしており、器の大きさも感じます。

その分やや引っ掛かりがない印象もありますが、補って余りある安定感だと思います。

その後、2024年モントリオール国際音楽コンクールでも演奏を聴く機会があり、入賞こそ逃しましたがファイナリスト6名に残りました。個人的には上位4人には入っていたと思います。

ショパンコンクールの入賞者でさえ、他のコンクールで予選落ちすることが多いなか、コンスタントに演奏の質を保てている安定感を感じます。

クシュリクのおすすめ曲

  • ポロネーズ第5番

割と全部の演奏が好きだったので迷いますが。

この男性的で悲劇的な大曲を、繊細かつ明瞭な音色で弾きこなしている感じが、ショパンの二面性をドンピシャで表現しているように思います。そして中間部のマズルカでは、マズルカ賞受賞の実力が遺憾なく発揮されていて、涙なしでは聴けません。。。

▼2021年ショパンコンクール録音 – クシュリク:ポロネーズ第5番

▼YouTubeプレイリスト – 2021年ショパンコンクール全曲(クシュリク)


第5位:レオノーラ・アルメリーニ(29歳、イタリア)

全体的におおらか、豊かな歌心で、細かいことは包み込んでしまう演奏スタイル。

最初に印象に残ったのが第1ラウンドの「エチュードOp.10-4」、めちゃ速くてびっくりしましたけど、破綻なく焦燥感が全面に出た演奏でおもしろいです。

第2ラウンドのワルツもよかった。
1曲目知らない!と思ったら、1840年に作曲されてなんと115年後の1955年に出版された遺作「ソステヌート」、2分ちょっとのかわいらしい曲でした。その後の「ワルツ2番」はツヤッツヤ!

そして大曲でも妙に説得力があります。音が飛んだり濁ったりしますが、それ以上に、一瞬一瞬の音楽の喜びみたいなものが伝わってきます。技術的にもしっかりしているからこそでしょうね。とはいえ、大雑把感や技術的な精一杯感は否めないところも。

アルメリーニのおすすめ曲

  • マズルカ Op.41

第3ラウンドの「マズルカOp.41」の選曲は大正解だったんじゃないでしょうか。

比較的聴くことの少ない作品だと思いますが、明暗入り混じる、うねりのある曲が並ぶ作品です。舞踏性よりも感情面で、こちらの感情も一緒に連れて行かてしまうような、彼女の表現力がいかんなく乗り移っていたと思います。

▼2021年ショパンコンクール録音 – アルメリーニ:マズルカ Op.41-4

▼YouTubeプレイリスト – 2021年ショパンコンクール全曲(アルメリーニ)


番外編:ラオ・ハオ(17歳、中国)

2021年ショパンコンクールは、筆者が初めてきちんと聴いた思い出深いコンクールなのですが、その中でも17歳でファイナリストとなったラオ・ハオさんが印象に残っています。もう一人の17歳、JJさんが6位入賞したのですが、筆者としては「この人にも順位がついていいのでは?」と思った記憶がありました。今振り返るとどんな演奏だっただろうかと思って、番外編として書いてみます。

まず何が引っ掛かったかというと、1次予選のノクターンがひたすら美しい!ノクターンの中でも平穏で“ノクターン”らしいこのOp27-2、それゆえに平坦になりやすいというか、だれが弾いても形になりやすいというか。ところが彼の演奏はとても流れがよく、かつ内声や構造も意識されていて重層的。様々な色の布が折り重なっていくような移ろいを感じる、ただただ美しい、じんわりと体温が上がり続ける時間でした。そしてエチュードOp10-10、声部の住み分けが徹底しており、ノクターンの延長線上の流麗な世界を感じます。まさに「練習曲」だと想像だにできない、官能的ともいえる音楽です。

その後の「舟歌」や「アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズ」、「ソナタ3番」に「協奏曲ホ短調」。大曲になると粗削りな感じもしますが、決して弾き飛ばさず、一音一音どっしりと構えている感じが、曲の輪郭を太くする印象があります。ソナタ3番の終楽章は、その遅めのテンポが主題の不気味さを際立たせていました。

3次予選の「子守歌」もすごかったです。優しい音色はもちろん、手が行き届いていて重層的。変奏曲で横に広がりを感じる曲ですが、なんとも重層的に聴こえました。

「順位がつかなかった理由」という視点でみると、技術はしっかりしているものの、粗削り感は否めない。特に技術レベルが上がったり長い曲となるとやや説得力に欠けるかなあという印象。全体的に、最後の最後に盛り上がってスピードアップしてしまう癖があるようで、そこがハマればって感じ。基本的にはずっと素晴らしい。基本的に落ち着いたテンポで引くので大崩れせず、ゆっくり故の妙な不気味さがありますし、余裕や貫禄といった印象にもつながります。

ラオ・ハオのおすすめ曲

  • ノクターンOp.27-1

3次予選の子守歌、ソナタ3番の3楽章なんかも美しい、頼りがいがあるというか、器の大きさを感じます。

▼2021年ショパンコンクール – ラオ・ハオ:ノクターンOp.27-1

▼YouTubeプレイリスト – 2021年ショパンコンクール全曲(ラオ・ハオ)

ピアノコンクールを観てみよう

と、上位入賞者だけを見てみてもおもしろいピアノコンクール。

これほど数多くのピアニストが一堂に会し、プログラム規定により同じ曲が演奏されることも多いので聴き比べができるのがコンクールの楽しみ方だと感じます。いわば日本酒飲み比べみたいな感じですね。

また、これまで聴いたことのない若い才能に惚れ込み、そのピアニストが上位入賞でもしたときには、こちらの喜びもひとしおというわけです。そして5年に1度というオリンピックをも凌ぐ開催間隔の広さに、期待も一挙に高まった状態で開催されるのもおもしろいです。

時差の関係で、あと単純に全て追いかけるのは時間的に厳しいですが、本選からでもぜひ一緒にトライしてみましょう!

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