シューベルト〜愛されキャラの歌曲王~ | クラシックTV放送内容&楽曲まとめ

クラシック音楽
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毎週木曜よる9時から、Eテレで放送されている「クラシックTV」。

今回は「シューベルト〜愛されキャラの歌曲王」(2024年2月29日初回放送、2025年1月6日放送)と題された放送回の内容と、登場した楽曲をまとめています。

はじめに

「魔王」「野ばら」「ます」、そして丸眼鏡の肖像画など、音楽の教科書でおなじみのフランツ・シューベルト。しかし、彼自身の人物像や、どのようにして“歌曲王”と呼ばれるようになったのかは、あまり知られていません。

実は、シューベルトは生前から“ファンクラブ”があるほどの愛されキャラであり、友人たちの応援サークルの支えによって名曲が生まれ、後世に残されました。

今回の放送では、シューベルトの音楽とその魅力、人物像について深く掘り下げられました。本記事では、その内容を詳しくまとめ、楽曲の特徴やシューベルトの生涯について解説していきます。

シューベルト ~“歌曲王”の生涯~

ベートーヴェンの時代に生きたシューベルト

シューベルトは、1797年1月31日にオーストリアのウィーンで生まれました。父は学校教師であり、幼い頃から父に音楽の手ほどきを受け基礎を学びました。10歳の頃には宮廷楽団の合唱隊員となり、音楽教育を受ける機会を得ました。

その才能は幼少期から際立っており、わずか13歳で「4手のためのピアノ幻想曲」を作曲。師であったサリエリからも、その才能を高く評価されました。彼は学業よりも音楽に熱心であり、19歳の頃にはすでに多くの作品を作曲していました。

当時のウィーンでは、ベートーヴェン(シューベルトより27歳年上)が大きな成功を収めており、楽壇の中心的人物でした。シューベルトも交響曲や室内楽を手がけましたが、彼の最も重要な貢献は“歌曲”にありました。

31年の短い生涯で約1,000曲を作曲

シューベルトはわずか31年という短い生涯の中で、約1,000曲を作曲しました。そのうち600曲以上が歌曲(ドイツリート)。歌曲とは、詩に音楽をつけた作品であり、シューベルトはこのジャンルを確立した第一人者です。

オペラは劇や演出が含まれる「総合芸術」であるのに対し、歌曲はあくまでも「詩」に旋律をつけた作品です。特に、シューベルトはゲーテの詩を好んで作曲し、「魔王」D 328、「野ばら」D 257 などの名曲を生み出しました。彼の作品は旋律が美しく、詩の内容と音楽が密接に結びついていることが特徴です。

シューベルトの代表的な歌曲

1. 「野ばら」 D 257

「野ばら」は、シューベルトがゲーテの詩に曲をつけた作品で、誰もが一度は聞いたことがある名曲です。

この曲の歌詞は、一見すると「野に咲くバラを子供が折ろうとする」というシンプルな内容。しかし、実はこれは恋愛の比喩。”モテ男”ゲーテ自身の若い頃の体験が元になっているとも言われています。

このような比喩が隠されているという前提でシューベルトの作曲技法を紐解くと、、、

  • 伴奏が陽気で、子供らしい無邪気さを表現
  • シンプルな伴奏だからこそ、世界感を構築が演奏者に求められる

といった特徴がみてとれます。

2. 「ます」 D.550

この曲も、シューベルトの最も有名な歌曲の一つです。「ますが泳ぐ様子」を音楽で描いた作品で、ピアノの軽快な伴奏が特徴。

作曲の特徴

  • ますが泳ぐスピード感をピアノの伴奏で表現
  • 3番の歌詞には盗人が登場し、雲行きが怪しくなる
    「野ばら」は1~3番まで同じ伴奏だが、「ます」は歌詞に合わせて伴奏が変化する
  • ピアノが単なる伴奏ではなく、ピアノの表現力を最大限に生かした世界感の構築が試みられている

ちなみに、歌唱を披露してくれたバリトンの大沼徹さんは、ドイツで「ます料理」を召し上がったそうで、皮がパリッと調理されおいしかったそうです笑。

シューベルトは当時売れていなかった!?

シューベルトは今でこそ“歌曲王”と称されますが、生前はあまり評価されていなかったといわれています

当時の音楽界では、「交響曲の父」ことハイドン、神童モーツァルトに楽聖ベートーヴェンの系譜による交響曲やオペラが主流“これらの曲を作ってこそ一流”であり、歌曲だけで成功することは難しかったのです。

さらに、シューベルト自身が控えめな性格であったことも影響し、積極的に自己プロデュースをすることがありませんでした。

そんなシューベルトを支えたのが、「シューベルティアーデ」という友人たちの応援サークルでした。

「シューベルティアーデ」とは?

  • シューベルトの学生時代の友人たちが発起人
  • 定期的に「シューベルトの新曲を聴く会」を開催→後のパリのサロンの先駆けのような存在
  • 業種もさまざまな芸術家たちが集まり、教科書に載っている有名な肖像画も、親友の画家シュヴィントが描いた
  • 歌曲の詩の提供や、芸術談義が行われた
  • 友人たちの援助で、初めての歌曲集が出版される
  • シューベルトはウィーンを拠点にしていたが、友人宅に居候していた

歌曲だけじゃない!シューベルトの魅力

シューベルト作品の魅力は、「飾らない」「自然体」「小さな幸せをこっそり音楽で表現した」ような素朴さにあります。

たとえば・・・

「即興曲第2番 D 899」の冒頭は単純な音階、「即興曲第2番 D 895」の冒頭は単純な和音ですが、彼の手にかかると芸術に。

ほかにも・・・

楽興の時第3番、交響曲第7番「未完成」第2楽章、アルペジョーネ・ソナタ(19世紀に登場した弦楽器)など、「ひとりの時間に浸れる系の曲」と表現されていました。

当時巨大なトレンドだったベートーヴェン像に逆行するような魅力があります。

番組で紹介された楽曲一覧

歌曲

  • 「魔王」 D 328
  • 「野ばら」 D 257
  • 「ます」 D 550
  • 歌曲集「白鳥の歌」D 957 より「セレナーデ」

ピアノ曲・交響曲・室内楽曲

  • 「楽興の時」第3番 ヘ短調 D 780-3
  • 交響曲第7番 ロ短調「未完」 D 729
  • アルペジョーネ・ソナタ D 821
  • 即興曲第2番 D 899
  • 即興曲第2番 D 895

筆者の感想&おすすめのシューベルト

感想

「歌曲王」のイメージしかなかったため、そこまで意識して聴いてきませんでしたが、ここ数年聴く機会があり、それからすっかりハマっています。

燦然たるクラシックの歴史の中でも、特に重要視されているのが楽聖ベートーヴェン、そのため「ベートーヴェン・コンプレックス」に陥った作曲家も少なくないとか。シューベルトの一生はベートーヴェンの後半生と丸被りで、11歳のとき「ベートーヴェンのあとで、何ができるだろう」と言ったとされています。

そんな時代に作曲家として筆を執り続けたシューベルトだからこそ、番組内でも言及されていた「内省的」で「素朴」な魅力があるのかなあ、なんて考えたりします。

筆者おすすめのシューベルト

交響曲第8番 ハ長調「グレート」D 944

初めてきちんと聴いたのがこの交響曲。私の頭の中には「歌曲王」のイメージがなかったシューベルトですが、8曲も交響曲を作っています(ベートーヴェンは9曲)。

この曲はハ長調でシンプルながら上品、しかもスケールが大きく、正に「グレート」な交響曲です。ベートーヴェンを彷彿とさせる迫力もあり、のちのブラームスに繋がるような芳醇さも兼ね備えています。

幻想曲「さすらい人」ハ長調 D 760

こちらは初めてきちんと聴いたピアノ曲。コンクールを見始めた1つ目のブゾーニ国際(2023)にて、当サイトですっかり推しとなったアンソニー・ラティノフが演奏していたのが印象的でした。モントリオール国際(2024)でも演奏しており、インタビューでも思い入れの強い曲だとのことです。

この曲に関してはベートーヴェン顔負けの重厚感で、メロディアスな旋律が疾走感を保って展開していく聴きやすい曲です。そして高度の演奏技術を要する作品なので、シューベルト自身がうまく弾けず、苛立ちのあまり「こんな曲は悪魔にでも弾かせてしまえ」と言ったとか、笑。

ピアノソナタ第20番 イ長調 D 959/第21番 変ロ長調 D 960

シューベルトはピアノソナタも21曲残しています。交響曲・ピアノソナタといったメインのジャンルでも、これだけの数を残しているのがさすがですね。

そしてこれは生涯最後のソナタ2曲。きっかけはリーズ国際(2024年)で牛田智大が21番を演奏しており、探してみたらツィマーマンが録音していたので、この2曲にどっぷり沼っています。

明朗な20番、瞑想的な21番、どちらも1時間近い長大なソナタですが、そこはさすが「歌曲王」、非常に親しみやすいメロディが続き、飽きることがありません。

ところが、とにかく不安定!!!メロディが美しい分、急な曲調の変化が目立ちスリリングな体験となります。しかし、両曲とも最後には充実した結末を迎え、聴き終わったときの満足感は尋常でありません。


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