こんにちは。いりこです。
2023年もあっという間に5月に突入、GWも終わってしまいました。
いかがお過ごしでしたでしょうか?
行動制限が撤廃され、海外旅行を楽しむ方も増えていることでしょう!
しかしいざ海外旅行となると、それなりに日程を確保したいところですし、予算も掛かりがち、、、
ということで大きな旅行はせずひっそり過ごしている筆者、
せめて音楽で旅行気分を味わいたいと思って書き始めた次第です。
スイス編
記念すべき(?)第2回はアルプスの国・スイスから!
フランツ・リスト作曲の組曲「巡礼の年」から第1年:スイスをご紹介します。
この曲は、「ピアノの魔術師」ことリストが、若かりし日にマリー・ダグー伯爵夫人との逃避行で訪れたスイスの印象を音楽にしたものです。
若い芸術家とお金持ち婦人がやんごとなき関係になることは珍しいことではなかったようですが、この二人に至っては、夫人がリストの子を身籠り、パリのサロン界から二人で駆け落ち、というセンセーショナルなものだったようです。
曲自体も、ド派手なコンサートピースとは一線を画す、充実した内容になっています。
▼とりあえず再生しながら読んでみてください^^
どんな曲?
「巡礼の年」(「巡礼の年報」とも)は、「第1年:スイス」「第2年:イタリア」「ヴェネツィアとナポリ(第2年補遺)」「第3年」の4集からなり、今回は「第1年:スイス」のご紹介です。
1835年から1836年にかけて訪れたスイスの印象を音楽に起こした曲集で、全9曲。
若き日のスーパースターが書いたとは思えない、内省的な曲も多く、またのちの印象派を先取りするような革新的な曲もあり、非常に聴きごたえがあります。
下線を引いているのは、最後に紹介する個人的に聴きやすいと思う3曲です。
- 1.ウィリアム・テルの聖堂/Chapelle de Guillaume Tell
リスト特有のキラキラした細かい音符は少なく、荘重で堂々とした曲風。
「スイス建国の伝説的英雄」という歴史的・宗教的なスケールの大きさを感じます。
- 2.ヴァーレンシュタットの湖で/Au lac de Wallenstadt
せっかくなので風景をネットで検索しながら書いているのですが、
黒く鋭い山々に囲まれた草原と、このヴァーレンシュタット湖のセットはステキですね。スイスって感じ。
曲もこの風景をドンピシャで表現しており、左手では小舟をゆったり漕いでいる音、そして右手で牧歌的な伸びやかで柔らかい旋律が流れます。
それにしても、1830~40年代には作曲されていたそうですが、非常に写実的で、すでに1900年前後のフランス近代的・印象派的な作風を先取りしているように思えます。違うのかな?
超絶技巧のコンサートピースが注目されがちですが、こういった写実性というか、ピアノの可能性に対する深い理解が、リストのもう一つの魅力なんですよね。
- 3.パストラル/Pastorale
リズミカルなリズムに乗って、素朴で軽やかな牧歌が歌われます。1分半ほどの小曲です。
- 4.泉のほとりで/Au bord d’une source
前曲「パストラル」から切れ目なく演奏される、この「巡礼の年」全体でもかなり有名な曲。「第1年:スイス」の中で、私が最初に出会った曲です。
のちの「第3年」の「エステ荘の噴水」という、こちらも水を表現した曲につながる、ひいては後生のラヴェル「水の戯れ」、ドビュッシー「水の反映」にも影響を与えた音楽史的にも重要な意味を持った曲です。
ただ、そんな難しいことを抜きしても、
水のキラキラが流麗に表現された、ただただ美しい曲です。
- 5.嵐/Orage
曲集の中でひときわ激烈な、いわゆるリスト的な魅力がつまったかっこいい曲です。
- 6.オーベルマンの谷/Vallée d’Obermann
小中規模の曲の中に、こちらは15分越えの大曲。
そしてタイトルは、実在する地名ではないという異質な存在です。
19世紀前半にヨーロッパに自殺熱をもたらしたセナンクールの小説「オーベルマン」に着想を得て、主人公の苦悩や感情の移ろいを描いている(Wikipedia)とな。
オーベルマンの懊悩・葛藤、感情の機微が描かれているように感じます。
答えに辿り着いたかと思えばまた迷い、一進一退を繰り返しながら答えを探し続け、最後は救いのある明るい曲想で終わる。当時逃避行中のリストの心情と合致したのでしょうか。
- 7.牧歌/Eglogue
深刻な大曲「オーベルマンの谷」のあとに、とてもいい意味で箸休め的な存在。
軽やかな民謡調の牧歌で、また美しい風景やら旅行を楽しめるようになったリストの心情が想像できます。
- 8.郷愁/Le mal du pays
「自分の唯一の死に場所こそアルプスである」とパリから友人に書き綴ったオーベルマンが抱いた望郷の念を音楽で表現している。(Wikipedia)
またまた「オーベルマン」からの着想です。
メランコリックな歌唱的な旋律が印象的です。死を引き合いに出すほどの望郷の念が切実に歌われます。
- 9.ジュネーヴの鐘/Les cloches de Genève
スイスの旅も大詰め。
逃避行中にジュネーヴで生まれた初めての娘ブランディーヌに捧げられた曲。
前曲「郷愁」に似た単音の鐘の音が響く序奏。その後に続く安らぎのメロディーですが、どうにも不穏な影がちらつき、前途を手放しで楽観している訳ではなさそうです。
貴族の夫人と恋仲になることはあっても、子供を授かることは当時としても複雑な状況だったようです。絶賛売り出し中のリストにとっては将来の音楽活動に対する不安もあったことでしょう。この曲を聴くときにはそんな妄想をせずにはいられません。
最後は鐘の音を鳴らし、娘の幸福を、もしかしたらその他もろもろの前途を祈るように、この曲、この曲集を終えます。
おすすめの聴き方
- 親しみやすい曲3選
非常に本格的な曲集ですが、2分~6分ほどの曲がほとんどで、親しみやすい曲調のものから聴いてみていただければと思います!
個人的に聴きやすいなと思う曲はこちら↓
・1位:4.泉のほとりで/Au bord d’une source(約4分)
・2位:2.ヴァーレンシュタットの湖で/Au lac de Wallenstadt(約3分)
・3位:5.嵐/Orage(約4分)
- BGMとして
全体で50分程度。
上に紹介したように、情景描写が秀逸な曲が多いですが、
特に6.オーベルマンの谷~9.ジュネーヴの鐘は、聴くたびに発見がある味わい深い曲ですので、初めはさらっとでも流していただけると嬉しいです。
おすすめの音源
おすすめと言いつつ、知っている音源がこれですべてなのですが笑。一応ご紹介しておきます。
今回ご紹介した第1年から第3年まであるのですが、全曲で3時間近くあるため、全曲録音しているピアニストは多くないようです。
ラザール・ベルマン
20世紀に活躍したロシア人ピアニスト。
「巡礼の年 おすすめ🔎」で調べるとこぞってベルマンが紹介されており、決定的な名盤となっています。
強靭なタッチでテンポを落とさずザクザク難所をなぎ倒していく演奏は、非常に爽快です!
非常に内容の濃い曲集のため、技術的に余裕のあるベルマンの演奏に安心して身をゆだねることができます。
ルイ・ロルティ
フランス系カナダ人ピアニスト。
私が初めて出会ったファツィオリ弾きで、この曲集もたぶんファツィオリ。
リストを弾くイメージが無かったのですが、絵画・文学的側面が大きいこの曲集は、ロルティの、ファツィオリの柔らかい音で聴くのもまた一興です。
特に水系の「泉のほとりで」「エステ荘の噴水(第3年)」なんかは最高です!
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