こんにちは。いりこです。
2025年10月、5年に一度の第19回ショパン国際コンクールが開催されましたね!
4~5月の予備予選で、応募総数642名から、書類・音源審査を通過した164名が参加し、本大会出場85名が決定しています。
そんな世界最高峰のピアノコンクール、過去の大会を振り返ってみたいと思います。
もともとは「2010年、第16回大会がどれだけ贅沢だったのかを改めて実感しよう」という趣旨で入賞者の演奏を聞いてみました。上位陣にはアヴデーエワにゲニューシャス、トリフォノフらが名を連ねるハイレベルな大会でした。
今回は、2015年第17回大会を振り返っていきます。
2015年ショパンコンクールを振り返る
ポーランド、ワルシャワで5年に1度行われる「ショパン国際ピアノコンクール」。
言わずと知れた世界一のピアノコンクールですが、2021年はコロナにより1年延期されての開催でした。
入賞者は以下のとおり。
第1位:チョ・ソンジン(21歳、韓国)【ポロネーズ賞】
第2位:シャルル・リシャール=アムラン(26歳、カナダ)【ソナタ賞】
第3位:ケイト・リウ(21歳、アメリカ)【マズルカ賞】
第4位:エリック・ルー(17歳、アメリカ)
第5位:イーケ・(トニー・)ヤン(16歳、カナダ)
第6位:ドミトリー・シシキン(23歳、ロシア)
全体的に若く、なんと10代が2人も入賞。アムラン以外は20歳そこそこと、精鋭たちが集まった大会でした。
今回はこの6名の入賞者を、おすすめの演奏曲とともにご紹介します。
第1位:チョ・ソンジン(21歳、韓国)【ポロネーズ賞】
2015年大会の優勝を飾ったのはチョ・ソンジン。韓国勢で初優勝、アジア勢としてもダン・タイ・ソン(1980年、ベトナム)、ユンディ・リ(2000年、中国)に続き3人目の快挙。
実は2009年の浜松国際コンクールで優勝しており、小説「蜜蜂と遠雷」でも(本人のお名前は出てないですけど)触れられています。彼がいなかったら浜松コンクールがここまで発展してなかったかも(?)そしてこんな素敵な小説が書かれることはなかったかも(?)と、多方面に影響を与えている偉業です。
演奏はというと、ずっと完璧。「あ!今ミスった」と一つのミスが目立つくらいほぼノーミス。この時の演奏は現在より「優等生」的な印象が残っています。
今大会で特筆すべきは、3次ラウンドで求められる「メインディッシュ」たる3つのうち2つを組み込んだこと。3次ラウンドではソナタ2番か3番、または前奏曲全24曲から1つが課されており、曲の規模も20分~40分に及ぶ大作です。
そんな中、3次ラウンドでは前奏曲を選択し、そしてソナタ2番を(いうなれば勝手に)2次ラウンドに組み込んでしまったんですね。同列に並んでいるとはいえ、前奏曲とソナタは別もの。これをどっちも弾けることを見せつけてくれたわけです。その分準備も大変になると思いますが、あっぱれです。
彼の音楽性の幅を見せつけた3次ラウンドでは、弱音や細かな音符の処理は滑らかに、でも大きな曲には大きなスケールで臨む、このバランス感覚。これを24曲通して聴かされると、もうただ黙って聴くしかありません。。。そして激情の24番ニ短調でフィナーレ!と思いきや最後にスケルツォ2番。。。これ筆者が最初に子供のときにはじめて聴いたスケルツォ。コンクールだと3番4番の方が多く演奏される印象ですが、なんとも甘美で神秘的な2番が好きです。そしてこれまた多彩な音色で駆け抜け、華やかに締めくくってくれました。これはなんとも煽情的!いや、演奏自体は優等生なんですけどね、この王道で突き抜けられる才能は本物だなという感じ。
チョ・ソンジンのおすすめ曲
- エチュード Op.10-1
- 英雄ポロネーズ
- スケルツォ2番
なんといっても鮮やかなハ長調 Op.10-1。快活なテンポ設定で、強弱やペダリングなどで陰影をつける余裕があります。
それから先ほど少し書いた、3次ラウンドの前奏曲の後のスケルツォ2番。個人的な思い入れもあると思いますが、甘美で神秘的ですてきな演奏でした。
それから忘れてはいけない王者の英雄ポロネーズ。ポロネーズ賞も獲得しています。
▼2015年ショパンコンクール録音 – チョ・ソンジン:エチュード Op.10-1
▼YouTubeプレイリスト – 2015年ショパンコンクール全曲
第2位:シャルル・リシャール=アムラン(26歳、カナダ)【ソナタ賞】
ケベック(カナダ)出身のピアニスト。優勝したチョ・ソンジンとは別ルート、今大会の演奏そのものでは「ショパン弾き」としての彼の演奏が好みという人も多いのではないかと思いますね。
圧巻だったのは2次ラウンド、「幻想ポロネーズ」と「ポロネーズ5番」を演奏。表現が難しいですが、かなりうまい。ショパンの核ともいえるポロネーズの中でも重要な大曲2つ、割と全部の音がきちんと鳴って聞こえてくるのに、ごちゃごちゃしていない。この辺りの仕込みのセンスが秀逸で、膨大な情報量にもかかわらず自然と頭に流れこんでくる痛快な感覚に繋がるのかなと。
男性的な「ポロネーズ5番」でも迫力十分。それから中間部のマズルカ、そして3次予選のマズルカも土っぽくて素朴でとってもよかった。そして、壮大な「幻想ポロネーズ」のあと、不意の洒脱な「ワルツ」に思わず涙してしまいました。小品がこれまた憎いほどいい。それからソナタ賞も獲得しているとおり大曲の構成ももちろん素晴らしい。ファイナルでのヘ短調協奏曲も、彼がこちらを選択してくれてよかったと思わせてくれます。
うねるような高速パッケージも、柔らかい音色を維持しながら難なく処理していますし、強烈な和音もスコンと飛んでくるのですが、ややミスタッチが増えるので、ショパン以上にテクニックを要する曲は本職ではない感じはします。この辺りもショパンらしいといえばショパンらしい。
アムランのおすすめ曲
- 幻想ポロネーズ
- ワルツ第8番 Op.64-3
- ポロネーズ5番
- マズルカ Op.33
まずは2次ラウンドすべて聴いてみてほしいです笑。上で書いたとおり、この流れできくワルツは絶品。3次ラウンドのマズルカも、マズルカ賞を獲得したケイト・リウより土っぽく素朴に響きます。
▼2015年ショパンコンクール録音 – アムラン:幻想ポロネーズ
▼YouTubeプレイリスト – 2015年ショパンコンクール全曲
第3位:ケイト・リウ(21歳、アメリカ)【マズルカ賞】
さて、2025年ショパン国際コンクール、初のポーランド人以外の審査員長を務めるギャリック・オールソンさんに「魔法」と言わしめたのが彼女のノクターン。
彼女の演奏はなんとも捉えどころのない魅力に溢れています。なんかこう、いい意味でザラザラしたタッチで耳や脳がえぐられていくようなインパクトがあります。
3次ラウンドの「即興曲3番」、比較的ゆったりした曲なのですが、どこか躍動感がある、心の奥底から突き動かされるような霊妙的なものを感じます。そこからのマズルカ、「ああ、この奥底からの躍動感がマッチするんだなあ」と、マズルカ賞も納得感が強いです。そしてそのままソナタ賞もあげていいくらいの「ソナタ3番」で充実の3次ラウンド。
2次ラウンドで聴かせてくれた「バラード4番」もかなり良く、特にコーダのヒステリックな感じがいい。しかしその後の「スケルツォ3番」が特に衝撃的。最後には目がくらむほどキラキラした「アンスピ&大ポロネーズ」で会場も大盛り上がり、ファイナルの協奏曲でも一段とブラボーフライングが早い熱狂ぶりでした。
1次ラウンドのエチュードでは技術的不安も感じましたが、2次以降は全く感じず没頭できます。
ケイト・リウのおすすめ曲
- ノクターン Op.62-1
- マズルカ Op.56
- スケルツォ3番
- アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ
名演ばっかりで悩むのですが、なんといっても【マズルカ賞】を獲得した演奏。土っぽいとか舞曲的というより、ショパンの日記の世界に連れ込まれるような感覚。
それから冒頭で紹介した「魔法」のノクターン。個人的には耳・脳が削り取られそうな衝撃だったスケルツォ3番、目がくらむくらいキラキラしたアンスピ&大ポロネーズもおすすめ、もちろんソナタ3番に協奏曲ホ短調も名演。
▼2015年ショパンコンクール録音 – ケイト・リウ:ノクターン Op.62-1
▼YouTubeプレイリスト – 2015年ショパンコンクール全曲
第4位:エリック・ルー(17歳、アメリカ)
弱冠17歳で第4位入賞を果たしたピアニスト。2025年ショパン国際コンクールに10年振りに再挑戦が話題となっています。
これだけの成績を残したわけですから、傍からみるとリスクの方が大きそうな、とても勇気ある挑戦だと思います。
2015年当時の演奏はというと、目の覚めるような鮮やかなテクニック、甘美な音色、そして何より果てしない広がりを感じさせる音楽性。
後半のラウンドに少し疲れが見えたのかなあという印象や、少し”きれい”過ぎるきらいも感じましたが、10年経ってどんな演奏が聴けるのか、2025年大会も楽しみなところです。
エリック・ルーのおすすめ曲
- ノクターン Op.27-2
- エチュード Op.10-8
- バラード4番
とにかく1次ラウンドの印象が鮮烈です。やはり美しい音色や、高い技術力というのは強いですね。17歳にしてこのバラード4番を生み出す土台になっていると感じます。
▼2015年ショパンコンクール録音 – エリック・ルー:ノクターン Op.27-2
▼YouTubeプレイリスト – 2015年ショパンコンクール全曲
第5位:イーケ・(トニー・)ヤン(16歳、カナダ)
ファイナリスト最年少はなんと16歳、カナダ育ちのイーケ・トニー・ヤン。この大会から年齢制限下限が引き下げられたようなので、正真正銘の最年少。
インタービューを見ると、2次ラウンドまで進めたら万々歳、2次ラウンド終了後に帰国の航空券を買っていたとのこと!また協奏曲は1楽章までしか演奏したことがなく、ファイナルが決まったあとも準備の真っただ中だったそうです笑。それにしても、そこまで崩壊している感じはなく、荒さがありながらも生きのいい音と柔らかい音が飛び交っており、エネルギッシュな演奏でしたね。
演奏は、ヤマハということもあってか、なんとも温かくて丸い音色。高い技術力もベースに伸びやかで躍動的な曲が印象的でした。大曲になるとやや説得力に欠ける気もします、が、これでまだ16歳!名前も覚えてなかったので、今後追いかけたいピアニストです。
イーケ・トニー・ヤンのおすすめ曲
- エチュード Op.10-7
- ボレロ
舟歌・スケルツォもよかったですが、深みのようなものよりは上への広がりというか、明るい曲が特にいいですね!
その中でもエチュードOp.10-7、これは見た目より難しいランキング1位なんじゃ無いかと思いますが鮮やか!
そしてこちらもあんまり聞くことのないボレロ。彼の高い技術と伸びやかな音もあって躍動感があり、初期の作品らしい混沌とした感じもよく表現されています。
▼YouTubeプレイリスト – 2015年ショパンコンクール全曲
第6位:ドミトリー・シシキン(23歳、ロシア)
ロシアンピアニズムを受け継ぐ、硬派で超絶技巧の持ち主。特に最後の最後、ピアノ協奏曲の3楽章コーダの高速パッセージは鳥肌モノでした。なんというか音数が多いというか、水量が多いというか、重層的に響く感じがしました。彼の世界観に四方を囲われている感覚。表現としてもそこまで突飛ではなく、もっと上位でもよかったのではないかと思います。
と、演奏自体もすばらしく聴き応えのあるピアニストなのですが、今大会はプログラムでもわくわくさせてくれました。
1次ラウンド、だいたいノクターンで温めてからエチュードに行くピアニストが多いと思いますが、開始から超難曲Op.10-1→Op.10-2。怖いもの知らずというか、自信家だなと思います。そしてノクターン枠としてそのままOp.10-3「別れの曲」へ。2次ラウンドでは作品番号1番のロンド!そしてノクターンOp.9-2、軽妙なワルツもすばらしい。3次ラウンドでは即興曲を4つとも弾いちゃう!幻想即興曲は生前には出版されず、ショパン自身もあまり評価していなかったという話もありコンクールなんかでは聴きませんが、ピアノ学習者からすると憧れの曲ですよね笑。でもやっぱりシニアのコンクールで聴くと異質に響いて不気味でした。
Stage I
Etude in C major Op. 10 No. 1
Etude in A minor Op. 10 No. 2
Etude in E major Op. 10 No. 3
Ballade in F major Op. 38
Stage II
Rondo in C minor Op. 1
Nocturne in E flat major Op. 9 No. 2
Waltz in F major Op. 34 No. 3
Polonaise in A flat major Op. 53
Scherzo in B flat minor Op. 31
Stage III
Impromptu in A flat major Op. 29
Impromptu in F sharp major Op. 36
Impromptu in G flat major Op. 51
Fantasy-Impromptu in C sharp minor Op. 66
Mazurka in A minor Op. 59 No. 1/A flat major Op. 59 No. 2/F sharp minor Op. 59 No. 3
Sonata in B minor Op. 35
Final: Piano Concerto in E minor Op. 11
シシキンのおすすめ曲
- エチュード Op.10-1
- ロンド1番
- 幻想即興曲
1次ラウンド1曲目から飛ばしたOp.10-1。そしてロンド1番に幻想即興曲なんかは、ショパンコンクールでなかなか聴かないでしょうね。
▼2015年ショパンコンクール録音 – シシキン
▼YouTubeプレイリスト – 2015年ショパンコンクール全曲
ピアノコンクールを観てみよう
と、上位入賞者だけを見てみてもおもしろいピアノコンクール。
これほど数多くのピアニストが一堂に会し、プログラム規定により同じ曲が演奏されることも多いので聴き比べができるのがコンクールの楽しみ方だと感じます。いわば日本酒飲み比べみたいな感じですね。
また、これまで聴いたことのない若い才能に惚れ込み、そのピアニストが上位入賞でもしたときには、こちらの喜びもひとしおというわけです。そして5年に1度というオリンピックをも凌ぐ開催間隔の広さに、期待も一挙に高まった状態で開催されるのもおもしろいです。
時差の関係で、あと単純に全て追いかけるのは時間的に厳しいですが、本選からでもぜひ一緒にトライしてみましょう!





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