こんにちは。いりこです。
世界で最も権威のあるコンクールの一つ、ショパン国際コンクールの開催が2025年に迫ってきました。
コロナで1年延期になった2021年大会からはや3年、はやくも2025年大会に向けてコンクールが動き始めました。まずは募集要項が発表されましたので、そちらを見ていきたいと思います。
タイトルにも書きましたが大きな変更がありました!
▼新着情報まとめはこちら
ショパン国際コンクールとは
知名度も権威も世界一と言っていい超名門ピアノコンクール。
大作曲家ショパンの名を冠し、祖国ポーランドが国を挙げて開催しているコンクールです。
演奏されるのはショパンの曲のみ!もちろんピアノ部門のみ!という独特なコンクールでもあります。5年に1度と開催間隔もかなり長く、歴史も長いです。
2020年はコロナで延期、満を持して開催された2021年大会は、反田と小林が入賞して話題になりました。優勝者のブルース・リウ、ガジェヴやガルシアなど、タレント揃いで見ごたえのある大会でした。
- 概要
開催地:ワルシャワ(ポーランド)
開催間隔:5年に1度(第18回:2021年10月(2020年から延期)、次回:2025年)
歴史:第1回1927年
- 入賞者(2021年 第18回)
第1位:ブルース・リウ(24歳、カナダ)
第2位:アレクサンダー・ガジェヴ(26歳、イタリア・スロベニア)
反田 恭平(27歳、日本)
第3位:マルティン・ガルシア・ガルシア(24歳、スペイン)
第4位:小林 愛実(26歳、日本)
ヤクブ・クシュリック(24歳、ポーランド)
第5位:レオノーラ・アルメリーニ(29歳、イタリア)
第6位:J・J・ジュン・リ・ブイ(17歳、カナダ)
▼2021年覇者ブルース・リウの3次予選から
- 審査員(2021年 第18回)
カタジーナ・ポポヴァ=ズィドロン(審査員長)、ドミトリ・アレクセーエフ、ダン・タイ・ソン、海老 彰子、フィリップ・ジュジアーノ、ネルソン・ゲルナー、アダム・ハラシェヴィチ、ケヴィン・ケナー、アルトゥール・モレイラ・リマ、ヤノシュ・オレイニチャク、ピオトル・パレチニ ほか
ちなみに過去の優勝者・入賞者は、クラシック界をけん引する錚々たるメンツ。名前を眺めるだけで鳥肌が立ちます!(笑)
- 主な優勝者・入賞者
優勝者:マウリツィオ・ポリーニ(1960)、マルタ・アルゲリッチ(1965)、ギャリック・オールソン(1970)、クリスティアン・ツィメルマン(1975)、ダン・タイ・ソン(1980)、スタニスラフ・ブーニン(1985)、ユンディ・リ(2000)、ラファウ・ブレハッチ(2005)、ユリアンナ・アヴデーエワ(2010)、チョ・ソンジン(2015)
入賞者:ウラディミール・アシュケナージ(1955年第2位)、アルトゥール・モレイラ・リマ(1965年第2位)、内田 光子(1970年第2位)、横山 幸雄(1990年第3位)、ダニール・トリフォノフ(2010年第3位)
ファイナルで異例のソロ!?「幻想ポロネーズ」が必須に
変更点は後ほどまとめますが、一番のサプライズはファイナルで「幻想ポロネーズ」の演奏が必須になったこと!
これまでのショパンコンクールでは、ショパンの協奏曲2曲(ホ短調・ヘ短調)のうちどちらか1曲だけを演奏することになっていました。
というか他の国際コンクールでも、ファイナルでは協奏曲を演奏することが一般的で、ソロ曲を演奏することはないんではないでしょうか。まさに「ショパン弾き発掘」といった色合いが濃くなりました。
課題曲~ほかの主な変更点~
第1ラウンド
• one of the Etudes indicated below:
/以下のエチュードから1曲:
in C major, Op. 10 No. 1/ハ長調
in A minor, Op. 10 No. 2/イ短調
in G sharp minor, Op. 25 No. 6/嬰ト短調
in B minor, Op. 25 No. 10/ロ短調
in A minor, Op. 25 No. 11/イ短調(木枯らし)
• one of the following pieces:
/以下の作品から1曲:
Nocturne in B major, Op. 9 No. 3/ノクターン第3番 ロ長調
Nocturne in C sharp minor, Op. 27 No. 1/ノクターン第7番 嬰ハ短調
Nocturne in D flat major, Op. 27 No. 2/ノクターン第8番 変ニ長調
Nocturne in G major, Op. 37 No. 2/ノクターン第12番 ト長調
Nocturne in C minor, Op. 48 No. 1/ノクターン第13番 ハ短調
Nocturne in F sharp minor, Op. 48 No. 2/ノクターン第14番 嬰ヘ短調
Nocturne in E flat major, Op. 55 No. 2/ノクターン第16番 変ホ長調
Nocturne in B major, Op. 62 No. 1/ノクターン第17番 ロ長調
Nocturne in E major, Op. 62 No. 2/ノクターン第18番 ホ長調
Etude in E major, Op. 10 No. 3/練習曲 ホ長調(別れの曲)
Etude in E flat minor, Op. 10 No. 6/練習曲 変ホ短調
Etude in C sharp minor, Op. 25 No. 7/練習曲 嬰ハ短調
• one of the following Waltzes:
/以下のワルツから1曲:
in E flat major, Op. 18/ワルツ第1番 変ホ長調(華麗なる大円舞曲)
in A flat major, Op. 34 No. 1/ワルツ第2番 変イ長調
in A flat major, Op. 42/ワルツ第5番 変イ長調
• one of the following pieces:
/以下の作品から1曲:
Ballade in G minor, Op. 23/バラード第1番 ト短調
Ballade in F major, Op. 38/バラード第2番 ヘ短調
Ballade in A flat major, Op. 47/バラード第3番 変イ長調
Ballade in F minor, Op. 52/バラード第4番 ヘ短調
Barcarolle in F sharp major, Op. 60/舟歌 嬰ヘ長調
Fantasy in F minor, Op. 49/幻想曲 ヘ短調
The pieces may be performed in any order./演奏順は問わない
- エチュードが2→1曲に
前大会まではエチュード2曲演奏する必要がありましたが、今回は1曲のみ。選択肢も少なく、しかも曲集の中でも特に難しい曲が並びます。「技術はここでふるいにかける」ということでしょうか。 - ワルツ1曲が必須に
エチュードに代わってワルツが課されます。選択肢は3曲のみ。前回までは第2ラウンドでワルツが課されていましたが、もっと選択肢多かったです。
まあ、うまい人のワルツって、なんだか気品と洒脱さに溢れて心地いいですよね。別の要素が審査対象に加わったのはおもしろくなりそうです。 - 中規模作品群からスケルツォが除外
自由選択の余地もないので、第1ラウンドでスケルツォが演奏されることはなくなりました。「バラード」or「幻想曲」or「舟歌」のラインナップは変わりません。より抒情性・音楽性が問われます。
全体的に選択の幅が狭まりました。対象を絞って審査をしやすくする意図があるかもしれませんが、同じ曲が続くと聴き手の集中力が持たなくなりそう。。。そこで存在感を出せるかどうかもカギになりそうです。
とはいえ、エチュードが削られワルツが課されるなど、求められる表現の幅は増えたのではないでしょうか。
第2ラウンド
• 6 Preludes from Op. 28, consisting of one of the following three groups:
/前奏曲 Op.28から、以下3つのグループのうちの1つからなる6曲:
7–12 or 13–18 or 19–24
• one of the following Polonaises:
/以下のポロネーズから1つ
Andante Spianato and Grande Polonaise brillante in E flat major, Op. 22/アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ 変ホ長調
Polonaise in F sharp minor, Op. 44/ポロネーズ第5番 嬰ヘ短調
Polonaise in A flat major, Op. 53/ポロネーズ第6番 変イ長調(英雄)
or both Polonaises from Op. 26/ポロネーズ第1・2番の両方
• any other solo piece or pieces by Fryderyk Chopin (the full Op. 28 is allowed).
/ショパン作曲の他のソロ作品(前奏曲 Op.28 全曲も可)
Performance time in the second round: 40–50 minutes.
/演奏時間は40~50分
The pieces may be performed in any order (except Op. 26).
/演奏順は問わない(ポロネーズ Op.26 を除く)
- 前奏曲から6曲が必須に(全曲演奏も可)
前回までは、第3ラウンドのメインディッシュに並んでいた前奏曲(全曲)。今回は、6曲ずつを1グループとして、必ずどれかを演奏することになりました。
ソナタを必ず弾かせたいのか、前奏曲を必ず弾かせたいのか。。。
ソナタの代わりに前奏曲を選ぶコンテスタントは決して多くなかったので、後者の理由でみんなに前奏曲弾かせたかったのかな?なんて想像します。小品を有機的にまとめる力が問われるというか。全曲取り上げるのはハードルが高かったでしょうしね。
もちろん、自由演奏の時間を利用して全曲取り上げることも可能になっています。演奏したいコンテスタントは、これまでのように第3ラウンドではなく、この第2ラウンドで取り上げることになります。
第3ラウンド
• Sonata in B flat minor, Op. 35 or Sonata in B minor, Op. 58
/ソナタ第2番 変ロ短調 または ソナタ第3番 ロ短調
The exposition in the first movement of both Sonatas should not be repeated.
/いずれのソナタも、第1楽章提示部はリピートしないこと
• a full set of Mazurkas from the following opuses:
/以下の作品番号のマズルカから1セット全曲
17, 24, 30, 33, 41, 50, 56, 59
The Mazurkas must be played in the order in which they are numbered in the opus. In the case of Opuses 33 and 41, the following numbering applies:
/マズルカは作品番号で付けられた順番で演奏しなければならない。作品33、41の場合は、以下の番号が適応される:
Op. 33
No. 1 in G sharp minor
No. 2 in C major
No. 3 in D major
No. 4 in B minor
Op. 41
No. 1 in E minor
No. 2 in B major
No. 3 in A flat major
No. 4 in C sharp minor
• any other solo piece or pieces by Fryderyk Chopin (if the hitherto performed repertoire does not achieve the minimum performance time indicated below).
/ショパン作曲のソロ作品(それまでに演奏されたレパートリーが、以下に示す最小演奏時間に達しない場合)
Performance time in the third round: 45–55 minutes.
/演奏時間は45~55分
The pieces may be performed in any order (except the Mazurkas).
/演奏順は問わない(マズルカを除く)
- メインディッシュから前奏曲が除外(→第2ラウンドへ)
第3ラウンドといえば、メインディッシュとして「ソナタ2番」or「3番」or「前奏曲全曲」が課されていましたが、先述のとおり、前奏曲を全曲演奏しようと思ったら第2ラウンドが唯一のチャンスとなりました。そしてソナタを必ず弾くことになります。
ファイナル
• Polonaise-Fantasy, Op. 61/幻想ポロネーズ
• One of the Piano Concertos: in E minor, Op. 11 or in F minor, Op. 21
/ピアノ協奏曲から1曲:ホ短調(1番) または ヘ短調(2番)
- 幻想ポロネーズが追加
これにより、ファイナルでソロ作品が課されるという類を見ないコンクールになりました。
演奏順はどうなるんでしょうね?特に書かれてないということは幻想ポロ→コンチェルトになるのかな?コンチェルトの後、アンコール的にソロ曲もアリかも??
その他:バラード特別賞
これまでの特別賞「コンチェルト賞」「マズルカ賞」「ポロネーズ賞」「ソナタ賞」に加え、「バラード賞」が新設されています。第1ラウンドでスケルツォが除外されたことにも影響しているのでしょうか?
幻想ポロネーズの取り扱いといい、より精神性・音楽性の重要度が高まりそうです。
カギとなる曲 ~幻想ポロネーズ・前奏曲~
幻想ポロネーズ Op.61
ファイナルで演奏必須となった幻想ポロネーズ。
ショパンのソロ作品の中でも極めて規模の大きい作品(12~14分くらい)で、”ポロネーズ(ポーランドの伝統舞踊)”の精神を取り入れながら、本質的には”幻想曲”。
技術的に難しいのはもちろんのこと、自由な形式でショパンの精神性がギュウギュウに詰まっています。これだけ質・量ともに情報量の多い作品をまとめ上げる想像力・構成力と、それを実際に形にする集中力・説得力が必要になります。
ファイナルでのソロ曲は異例となりますが、「ショパン弾き」を発掘するという目的にはこれ以上ない適任でしょう。演奏者によってかなり解釈・表現の幅が出る作品です。10人のファイナリストによる10通りの幻想ポロネーズが楽しめるのは、ワクワクしますね!
ショパンの新しいスタイルは苦労の末に生まれ、その苦労は、これまでには珍しい大量の音符と作曲スケッチが証明している。(中略)このスタイルは「最後のショパン」と呼ばれており、幻想ポロネーズは、その道を歩む最初の作品である。
ポーランドの英雄的な振る舞いとロマンティックで夢想的な哀愁、つまりポロネーズの特徴とノクターンの特徴を、これほど限定的かつ矛盾する形で組み合わせたショパンの作品は、おそらく他にはないだろう。ショパンは幻想ポロネーズのために膨大なスケッチを描いたが、そのタイトルは最後になって名付けられた。彼はこう告白していた: まだ何と呼べばいいかわからないものを完成させたい、と。
https://chopin2020.pl/en/compositions/64/polonaise-fantasy-in-a-flat-major-op.-61
前奏曲 Op.28
そして第2ラウンドで必須になった前奏曲。
作品28は、24の小品からなる曲集で、24全ての異なる調で書かれた曲が規則正しく循環するという、数学的にも美しい曲集。
第1曲ハ長調(#♭0個)、次に平行調(調号が同じ長調と短調)のイ短調(#♭0個)、そして5度上のト長調(#1個)と平行短調のホ短調(#1個)、、、最後はヘ長調(♭1個)からニ短調(♭1個)につながります。
「5度上(ド→ソ)」と聞くと突拍子もなく感じるかもしれませんが、とても近い雰囲気です。そのため曲間の違和感もなく統一感があり、また明/暗が交互に入り乱れるドラマチックな構成なので、どんどんのめり込んでいく仕掛けになっています。
このように挑戦的なコンセプトで、そして個々も名曲揃いの傑作です。
太田胃散から始まる日本人歓喜の(?)第7~12番、「雨だれ」を擁する内容充実の第13~18番、劇的フィナーレに向かう第19~24番、どこを取っても名曲ですねぇ。もちろん、持ち時間を使って全曲演奏することも可能です。
個人的には、説明不要の名曲15番「雨だれ」~激情的で超かっこいい16番~重層的でアンニュイな17番の流れが好みなので、真ん中が聴けたら嬉しい。
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