※2.26 ゲニューシャス追記
こんにちは。いりこです。
直近で足を運んだトリフォノフの演奏の余韻がまだ残っており、
ここ数日は、彼が第3位を獲得した2010年ショパン国際コンクールでの演奏にどっぷり浸かっています。
そして遡ること数か月前、友人がアヴデーエワの大ファンだという話をしていました。
アヴデーエワといえば、同2010年大会の覇者。
10年ほど前に録音を聴いて、そのときは引っかかるところがなかったのですが、
アラサーになってようやく、彼女の器の大きさに気づいたものであります。
ということで今回は、最近ハマった2人のピアニストを輩出した2010年大会がどれだけ贅沢だったかということを少し語ってみたいと思います。
2010年ショパンコンクールを振り返る
ポーランド、ワルシャワで5年に1度行われる「ショパン国際ピアノコンクール」。
言わずと知れた世界一のピアノコンクールで、特に2010年はショパン生誕200年での開催でした。
入賞者は以下のとおり。
第1位:ユリアンナ・アヴデーエワ(25歳、ロシア)
第2位:ルーカス・ゲニューシャス(20歳、ロシア/リトアニア)
インゴルフ・ヴンダー(25歳、オーストリア)
第3位:ダニール・トリフォノフ(19歳、ロシア)
第4位:エフゲニー・ボジャノフ(26歳、ブルガリア)
第5位:フランソワ・デュモン(25歳、フランス)
第6位:該当者なし
経歴を見るにすでに他のコンクールでの入賞歴があるなど、もはやセミプロみたいな顔ぶれ。
後述しますが、優勝したアヴデーエワの演奏はもう完成されてました。もはや音源化されたCDです。
たぶん、彼女と並んで活躍目覚ましいのがトリフォノフ。彼ほどのピアニストが第3位というのがもう贅沢。
今回は太字の4名を、おすすめの演奏曲とともにご紹介します。
優勝:ユリアンナ・アヴデーエワ(ロシア、当時25歳)
過去優勝者の演奏を知るため、本選のコンチェルトだけをいろいろ聴いてみた時期がありました。
迫力のあるコンチェルトが好きだったし、ほぼ全員同じ曲を演奏するので比較もしやすかった、という理由です。
そのときの彼女に対する感想は、「ミスタッチが多い」「音に華がない」、
概して、一体全体ナゼ彼女が優勝したのか分かりませんでした。
それ以降も興味が湧かず、演奏を聴いたことがありませんでした。
なんともお恥ずかしい話です(/ω\)。。。
冒頭で書いたとおり、昨年友人からの勧めでソロ演奏を聴いてみました。
すると、なんということでしょう。
音のまろやかさ、手の込んだ構成、そしてスケールの大きな語り口。
十分にロマンチックながら大げさでないというバランス感覚。
ほとんど哲学者のような深みで、王道からは外れていると思いますが、ここ最近の優勝者の中でも群を抜いた完成度で、”コンテスタント”としては異様なほど。
- アルゲリッチ以来45年ぶりの女性優勝者(+ソナタ賞)
- われらがYAMAHAを演奏した初の優勝者
まさに我が道を行く孤高のピアニストです。
ただ、コンチェルトに関しては、あまり好みではありません。。。
基本的に手が込んでいてハッとさせられるのですが、テンポを揺らす独特の節回しは、この曲の若い勢いを殺しているように感じられます。さらに、ソロの時には気にならなかったのですが非常にミスタッチが多く気が散ります。(電気が消えるというトンデモな事故を乗り越えたのはさすがですが!)
逆にあのコンチェルトでも覆らないほどの、ソロでの貯金があったと考えると、すごいです(語彙)。
アヴデーエワのおすすめ曲
- バラード第4番
バラード4番なんて曲が良すぎますから、ある程度のピアノストが弾けばだいたいよく聞こえますよね、ショパンコンクールで学びました笑。
ただこれは、かなり記憶に残る演奏でした。
ルービンシュタイン、ツィマーマン、最近の入賞者などたくさん録音がありますが、その中でも1・2を争うお気に入りになっています。
コンクールの演奏ということもあり、彼女の特性でもあるミスタッチはやや気になりますが、補って余りあるほど円熟した人生観みたいなものが詰まっています。優勝文句なし!
他にも、ピアノソナタ2番、幻想曲など、メンドクサイ手の込んだ作品で真価が発揮される印象です。特にソナタ賞を受賞した演奏は必聴です。
また3次予選に組み込まれたノクターン(Op.27–2)にはハッとしました。プログラム構成もおもしろいです。
▼2010年ショパンコンクール録音 – アヴデーエワ:バラード4番
▼YouTubeプレイリスト – 2010年ショパンコンクール全曲(アヴデーエワ)
第2位:ルーカス・ゲニューシャス(ロシア/リトアニア、当時20歳)
トリフォノフを抑えて2位を獲得した、弱冠20歳だったゲニューシャス。
アヴデーエワ、トリフォノフ(とデュモン)の後に聴き始めましたので、
ここに食い込む演奏とはどんなもんか見てやろうと、ややハードルを上げていました。
が、結果めちゃくちゃファンになりました!
落ち着いた響き、かっちりした構成力、時折若いパッションが入り混じる演奏で、上位陣の中で最も「正統派」な演奏、ショパン弾き発見を掲げるこのコンクールの方向性にもピッタリだったと感じます。
エチュード Op.10-2/Op.25-6などの難曲でも余裕をみせる技術レベル(両方弾いちゃう度胸)、舟歌やポロネーズ、ソナタや協奏曲などの大曲でも隅々まで神経が行き届いた成熟ぶり。
エチュードOp.25を、1次・3次予選を使って全曲演奏したプログラム構成も面白いですね。
1次予選で、情緒的な曲群からノクターンが演奏されることが多いですが、ここでOp.25-7を選択。Op.25-11「木枯らし」も組み込んで、残り10曲を3次予選に組み込んできました。
ポリーニを彷彿とさせる硬質な音でバリバリ弾くかと思ったら、最後の Op25-12「大洋」は静かにフェードインしたりと、深くて多様な音楽センスを見せてくれたりします。
そして圧巻の協奏曲!最後まで抜け目のない完璧な音源レベルの演奏でした。拍手もフライングも一段と早かったです笑。
この完成度で20歳!恥ずかしながら私の耳には活躍ぶりが届いてなかったので、これからフォローしていきたいと思います。
ゲニューシャスのおすすめ曲
- 大洋のエチュード Op.25-12
3次予選、幻想ポロネーズ・ソナタ2番と大曲を弾き終えると、おもむろにエオリアンハープ Op.25-1 を弾き始め、エチュード全曲の旅へと場面が変わりました。この長旅を締めくくったのが Op.25-12「大洋」なわけですが、これがまた深ーい。不気味なまでに静かな入り、次第に広がりを見せるも落ち着いたテンポ。とても興味深いバランス感覚です。すこです。
結構ずっと素晴らしかったですが、強いて言うとポロネーズ賞を獲得したポロネーズ5番、舟歌、協奏曲ホ短調なんかが聴きやすくておすすめです。
▼2010年ショパンコンクール録音 – ゲニューシャス:ポロネーズ5番
▼YouTubeプレイリスト – 2010年ショパンコンクール全曲(ゲニューシャス)
第3位:ダニール・トリフォノフ(ロシア、当時19歳)
19歳にして第3位、マズルカ賞を受賞した逸材。
超絶技巧はすでに健在で、若さもあってかとにかく速い速い笑。そのうえファツィオリの追い風もあってかとにかく音色がキラキラ。
これだけ王道を突っ走れるだけの素質を持ち合わせていながら、音楽は個性的。
優等生的に収まらず、オリジナリティ溢れる唯一無二のピアニストです。
本選の協奏曲3楽章ロンドでのボルテージは半端じゃありません!
この青年はどこまで高みに行ってしまうのかと。。。
とはいえ、コンクールの演奏はかなり粗削りですし、深みとかそれ以上のものはあまり感じません。
音の純度は極上だし、歌心もあってロマンチックですけどね!
トリフォノフのおすすめ曲
- ピアノ協奏曲 ホ短調 – 第3楽章
結構いろいろ好きだったのですが、1つ挙げるとすると本選のコンチェルト。特に終楽章。
若い才能が爆発する瞬間を、会場で味わってみたかったと思わされる演奏です。
ノクターン(Op.62-1)、ソナタや協奏曲の緩徐楽章などの美しい曲から、マズルカ風ロンド、華麗なる大ポロネーズ、ソナタ3番終楽章など、彼の技巧と若さを楽しめる曲たちも素敵でした。
即興曲1番などの小品も軽やか!
▼2010年ショパンコンクール録音 – トリフォノフ: ピアノ協奏曲 ホ短調(第3楽章)
▼YouTubeプレイリスト – 2010年ショパンコンクール全曲(トリフォノフ)
その後の活躍も目覚ましいのでぜひ聴いてみてください!
- ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲
- リスト:超絶技巧練習曲
第5位:フランソワ・デュモン(フランス、当時25歳)
彼のラヴェルのソロ全集は好きで聴いていたのですが、今回記事を書いていて初めて、ショパンコンクールの入賞者だということを知りました。
ラヴェルの演奏はもちろん、ショパン”コンクール”でも、なんだか色っぽい。
艶っぽい音色はもちろんのこと、低音の響かせ方だったり、内声の鳴らし方だったり、テンポで焦らされたり、言葉を選ばずに言うとずっとエロい。
ただ雰囲気で押すのではなく、パキっとしてほしい/フォルテでガツンときてほしいところで外さない力強さも持ち合わせています。なので余計にエロさが際立ちます。
最近のコンクールだったらもう1、2つ順位が高くてもおかしくないと思いました。
デュモンのおすすめ曲
- 組曲「鏡」:道化師の朝の歌
私が彼のファンになった大きなきっかけがこの曲。
組曲中、いや、ピアノ曲としても異質なこの曲。
高速連打や二重グリッサンドなどの超絶技巧はもちろん、情熱的なリズム感や鋭角な和声が魅力の曲。
それらを硬質かつ色っぽい音色で再現するという離れ業を成し遂げているのがこの録音です。
ロルティ盤が好きで解像度が圧倒的なのですが、アンニュイな雰囲気を残すデュモン盤も魅力的です。
もちろん全集内の他の曲も総じて素敵ですし、ショパンコンクールでの演奏も全てハイレベルなので聴いてみてください!強いて言うなら舟歌とソナタ。
▼YouTubeプレイリスト – 2010年ショパンコンクール全曲 – デュモン
▼2010年ショパンコンクール録音 – デュモン
ピアノコンクールを観てみよう
と、上位入賞者だけを見てみてもおもしろいピアノコンクール。
これほど数多くのピアニストが一堂に会し、プログラム規定により同じ曲が演奏されることも多く、聴き比べができるのがコンクールの楽しみ方だと感じます。いわば日本酒飲み比べみたいな感じですね。
またこれまで聴いたことのない若い才能に惚れ込み、そのピアニストが上位入賞でもしたときには、こちらの喜びもひとしおというわけです。いわばオリンピックと同じです。
2024年も注目コンクールが満載ですし、2025年にはショパンコンクールが開催されます。
時差の関係で、あと単純に全て追いかけるのは時間的に厳しいですが、本選からでもぜひ一緒にトライしてみましょう!
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