【2023.11.22】クリスティアン・ツィメルマン(ツィマーマン) 公演感想 @川商ホール 第1(鹿児島)

コンサート日記
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こんにちは。いりこです。
11月22日(水)川商ホール(鹿児島市民文化ホール)第1 にて行われたクリスティアン・ツィメルマン(ツィマーマン)のピアノソロ公演に行ってきました。

公演に行かれた方とも、行かれてない方とも、この感動を共有できたら嬉しいです。

↓なかなか発表されなかったプログラムが発表されたときの興奮

1975年ショパンコンクール第1位 クリスティアン・ツィメルマン(ツィマーマン)

なんといっても1975年ショパン国際コンクール、史上最年少18歳の若さで優勝。
そしてマズルカ賞・ポロネーズ賞と特別賞も総なめ
地元ポーランド出身優勝は20年ぶり3人目の快挙となりました。

ショパンコンクールの審査員は努めていないようですが、
ソナタ賞の創設者・プレゼンターと、後進への影響力も多大なピアニストです。


とにかく細部まで手入れの行き届いた完成度!
「完璧すぎて疲れる」との声を目にするほどですが、
それの何が問題なのでしょうか。誉め言葉でしょうか。

むやみにコンサートや録音を連発せず、
ほんとうに純度の高い作品のみを世に出しています。
ブラームスのコンチェルトなんて、
これほど全ての音を鳴らしている音源は他にないんじゃないかと思うほど。

とはいえ音源数は少なくないので、質と量とが両立するという離れ業。

▼公式FB
https://www.facebook.com/KrystianZimerman/

↑厳格な演奏とのギャップ萌え

親日家として有名で、日本公演の機会は少なくないですが、
今回は2年ぶりの開催、御年66歳と、
いつまでも転がっているチャンスではない気がしています。。。

私が幼少期から特に聴いていたピアニストでしたので、
彼も私も元気なうちに機会がありとてもうれしいです。

プログラム/チケット情報

会場:川商ホール(鹿児島市民文化ホール)HP
チケット:チケットぴあ

ジャパン・アーツ:https://www.japanarts.co.jp/concert/p2051/

2023年11月22日(水) 19:00 開演  川商ホール(鹿児島市民文化ホール)第1 

プログラム

  • ショパン:夜想曲第2番 変ホ長調 Op.9-2
         夜想曲第5番 嬰へ長調 Op.15-2
         夜想曲第16番 変ホ長調 Op.55-2
         夜想曲第18番 ホ長調 Op.62-2
  • ショパン:ピアノソナタ第2番 変ロ短調「葬送」Op.35
  • ドビュッシー:版画
  • シマノフスキ:ポーランド民謡の主題による変奏曲 Op.10

ショパンノクターン(夜想曲)尽くし!
特にOp.9-2は、皆さんが思い浮かべる”いわゆる”「ノクターン」です。
こんな手垢のついた曲を演奏してくれるなんて、、、
照れる、、楽しみ過ぎる。。。。

そしてソナタ2番
複雑で室内楽的な要素もある3番に比べると、
こちらはピアニズムの極みのような作品。
彼はソナタを録音していないので、これが初めての機会です。

そしてドビュッシー「版画」
その名の通り色彩豊かなフランスものの小品3曲。

シマノフスキは同郷ポーランド人作曲家。
この「ポーランド民謡の主題による変奏曲」
ツィメルマンも録音を残すほど親しみのある曲のようです。
プログラム中最も気合が入るメインディッシュだと思いますので、一応予習しておこう。。

全体としては年初のブレハッチと似たような構成。
ショパン→モーツアルト→ドビュッシー→シマノフスキでした。
そして来年2月公演ではピアノソナタ2番を演奏予定。
新旧(敬意をもって)最強ピアニストの聴き比べができれば贅沢ですね。

チケット

S席:6,500円
A席:4,500円
B席:2,500円

地方公演は少し安いのがすてき。

全体を通してのツィメルマンの魅力&ちょっと反省

エレガントな佇まい

あれは燕尾服っていうんでしょうか?
後ろの長い黒ジャケットで颯爽と登場!
きれいな白髪・白髭で、イケオジっぷりは健在!!きゅん!!!

そして、背筋をピンとのばした演奏姿は、それだけで上品。高貴。
視覚的にすごく絵になります。

また、かなり意図的に手を動かしている(演奏とは関係ないところで)のも印象的。チャーミング!
曲を弾き終えたときの背中の反り具合も思ったより大きく、チャーミング!

笑顔と鼻歌

今回は、なるべく近くでツィマーマンを感じようと思って席を購入しました。

結果的には大満足!想像以上ににこやかな表情で、鼻歌も歌いながら演奏していました。
本当に、演奏姿もあいまって上品極まりないステージで、
こちらもまでエレガントにドレスアップしている気分になりました。

ちょっと反省

完全に私の落ち度なのですが、期待し過ぎ&個人的な思い出を乗せすぎていました(笑)

御年齢的に全盛期ではないのは明らかですし、
ずっと1番好きなピアニストだったので、期待し過ぎると勝手にがっかりしてしまうのは明らかですし、まあ音響がめちゃくちゃいいわけでもないだろうとは思っていました。

ツィマーマンといえば、どことなくせっかちになる癖があると思います。
とにかくテンポを落とさない、どころかテンポを上げることもしばしば。
やや不自然と思うこともありながら、
どんなテンポでも破綻しない盤石なテクニックと表現力で、
むしろこれが正解なんではないかという説得力がありました。

今回は、後述していますが、
もちろん技術的な全盛期は過ぎていてるため気になるところがありましたが、
若いころの色気とはまた違う魅力ももちろんありましたので、
はじめのノクターン2曲くらいは若干戸惑いながら聞いていました。

ショパン:夜想曲第2番 変ホ長調 Op.9-2

まずはノクターン(夜想曲)4連発。

そして、単に「ノクターン」と言ったときにはこのOp.9-2が指されることが多いです。
クラシックに詳しくない方でも「ノクターン」と聞いて思い浮かべる、あの曲です。
というか、「ショパン」と聞いて思い浮かべる、あの曲です。

みなさんはこの曲お好きですか?(唐突)

私はもちろん嫌いではないですが、
なんというか、、子供のころから発表会、テレビなど各所で聴きまくり、
なんというか、、、王道過ぎて気恥ずかしいというか、
なんというか、、、、サブカル心がモゾモゾするというか。。。照)

この曲自体も、
より複雑で手の込んだ素晴らしいノクターンがたくさんある中で、
とにかく甘々で展開もやや単調、大衆みが強い作品、という印象を持っています。

というわけで、この手垢のついた曲を、
現代最高のピアニストが弾くとどんな感じになるのか、
個人的には今日一番の興味がありました。

、、、

先に書いたとおり、私の過剰な期待により、戸惑いタイムが流れていました。

それでも、舞台袖からの凛とした立ち居振る舞い、
チャーミングな笑顔と鼻歌が聞こえて、幸せな時間でした。

わりと性急であっさりとした音色と演奏でしたが、
これくらいの塩加減がちょうどいいのかも。大人だし。

ショパン:夜想曲第5番 嬰へ長調 Op.15-2

夢の世界から一転、幾分現実的なロマンチック。
母親が子供を寝かしつける歌か、夜中に恋人を思う歌か。

彼の演奏を聴いて、なぜみんなこの曲をゆっくり弾くのか分かりました(笑)
とにかく装飾が多く、曲の流れを止めないためにはゆっくりスタートする必要があるんだろうと思います。

すこし早めであっさりした演奏、複雑な和声が特徴的な中間部もさらっと聞こえてしまいました。

ショパン:夜想曲第16番 変ホ長調 Op.55-2

最初の変ロ音が特徴的です。

左手の伴奏の上で右手が歌い、極端な変化もないベーシックな構成なのですが、
晴れやかとも鬱々とも言い難いハーモニーの妙というか、
なによりショパンのメロディーメイカーっぷりが遺憾なく発揮されていて、
ただただ美しい。

そんな夢のような曲ですが、
彼の演奏に慣れてきたのもあって、
現実味があるというか地に足ついた音色が心地よくなってきました。

視覚的にも凛とした白髪の人生の大先輩の演奏。
最後の力強い終始音には背中を押された気がします。まあ生きてみなさいよと。

ショパン:夜想曲第18番 ホ長調 Op.62-2

そしてまた現実的な曲。生前最後に出版されたノクターン。

今日のノクターンで初めて、分かりやすい短調が中間部に登場。

プログラム的におもしろいのが、ノクターンも作曲された順番にならんでおり、
大音楽家ショパンの人生を、大音楽家ツィメルマンのガイドで一緒に見ている感覚になります。
曲の内容も変わります。


どうしても、黄金期の響きを頭に浮かべて聴き始めましたのでギャップがありましたが、
それ以上に、”あの”ツィメルマンが目の前で演奏している幸せ、
若いころとは違った音色の美しさを噛み締めることにしました。

ショパン:ピアノソナタ第2番 変ロ短調「葬送」Op.35

短調で激しい主題から、最後は長調で華やかに幕を閉じる第1楽章
ノクターンでは見せなかった太い音色が光ります。

ところが心配していたとおり、
やや早めのテンポから、若干加速気味。
弾けていれば圧巻なんですが、ややほつれ気味。

細かいところを気にしなければもちろん素晴らしかったです。
が、これまで聞いた若いピアニストと比べてもやや青い印象すらあります。
(自覚はあります、期待し過ぎていただけ、、)

第2楽章、ショパンお得意の”深刻な”スケルツォ。
相変わらずぶっ飛ばします。

切れ味のある楽章なので、これくらいのテンポが理想だという解釈なんだと思いますが、
跳躍がなかなか当たらない。個人的にはやや逆に集中力がそがれた気がします。

第3楽章、葬送行進曲、
具体的には覚えていないのですが、特に再現部のテーマ終盤は圧巻でした。
急にギアが上がり、音量というか音速・音圧があがり、一気に引き込まれます。

最後の最後はここ一番の弱音で、かなり遠くのほうに行ってしまいました。

からの間髪入れず第4楽章、
ここは意外と潤いがあり、埃っぽい風というイメージよりももっと非現実的で不気味な世界。
彼にはどんな世界が見えていたんだろうかと、畏怖のようなものが生まれました。

こうして聞くと、とくに最後の5分間は異様でした。
上品な演奏姿とのギャップもあり怖かった。

ベテランアーティストをライブで聴く醍醐味なんだと痛感。

ドビュッシー:版画

後半はドビュッシー。

ツィマーマンは前奏曲の録音が残っています。
初めて聴いたときは驚きでした。

学者気質な、左脳的な処理が秀逸なイメージでしたが、
なんと色気のある艶やかな音色だこと!

今回の演奏は、鮮明な映像を流してくれている、というよりも
史実だったり物語を文章で朗読してくれている感覚。艶やか度でいうとそんな感じ。

第1曲:パゴダ(塔)、第2曲:グラナダの夕べ
特に2番はリズム感が意外と独特で鋭い印象。
やはり技術的ハードルがクリアされていると凄まじい深みがあります。

第3曲:雨の庭
やや性急な印象。
メロディーを浮かばせるのが難しい曲ではありますが、なかなか浮かんでこない。
それでもこのテンポ設定が適当だということなんでしょうかね。

シマノフスキ:ポーランド民謡の主題による変奏曲 Op.10

短いアンニュイな前奏から主題へ。
かなり心許ない、細い旋律。なんか心配になってしまう。

ああ、今日はこれを聴くためにここに来たんだな!という感じ。
ツィマーマンにとってもこれがメインディッシュでしょう。
ポピュラーなショパンで会場を温め、ドビュッシーの小品で助走をとり、
この曲でたかーーいところまで連れて行ってくれました。

細い旋律もあっという間に厚みを増し、さまざまに形を変えて展開、
しかし終始短調で不穏・不安は尽きない。

第6変奏あたりから落ち着きを取り戻し、周りを見る余裕が生まれたみたい。ホッ。
第7変奏は美しいキラキラがあたりを包みます。ホッ。

そんな安らかな時間に突然流れる葬送行進曲は第8変奏。
だんだん近づいてくると、それは怒りに満ちた行進団。
そのまま通り過ぎていきました。いったい何に対する?どこに向かう?

気が付くとあたりはまた混沌。
しかし先ほどまでに比べると光も確かに見える、、
そして光が強くなってくる、進むべき方向が見えてくる。

フィナーレではなんと、ここで一旦、主題でフーガを展開させる。
これはなんの時間だったんだろう、かなり印象的です。

狂気じみた和声、トリル、高速パッセージの応酬です。
これは喜んでいいのか?まだ不安。。

しかしだんだんと先ほどみた光が見え始めます。
もう安心です。こっちに進めばいいんです。あとは自分の力で進むだけ。

不安につぶされそうな少女が立ち上がるまでのストーリ―です。


、、、
と、勝手にストーリーを妄想していましたが、
妄想しているうちに、自分の背中も押されたような気がします。
20分近い大曲のはずですが、気づいたら曲が終わっていました。
すごい濃度です。

、、、
関係ないですが、メジャーとはいえない作曲家の曲を、
同郷のピアニストが演奏するのって素敵ですよね。

筆者がこれまで聞いたものだとこんな感じ。
アムラン(ケベック、カナダ):ギャニオン/めぐりあい(これは有名か)
ガルシア(スペイン):モンポウ/子供の情景、歌と踊り
ブレハッチ(ポーランド):シマノフスキ/12の変奏曲 Op.3
ツィマーマン(ポーランド):シマノフスキ/ポーランドの主題による変奏曲 Op.10

アンコール曲

  • ラフマニノフ:前奏曲 ニ長調 Op.23-4

いや、まさかアンコール弾いてくれるとは。。。
珠玉の二重唱です。改めてラフマニノフも天才です。

演奏こそ1曲でしたが、カーテンコールには何度も応えて登壇してくれました。
最後は「もう寝せてくれ💤」と笑顔でジェスチャー(笑)
チャーミングでした。素敵なおじさまです。

さいごに

年初のブレハッチを(勝手に)思い出す構成。
(ショパン→モーツアルト→ドビュッシー→シマノフスキでした。)
そしてブレハッチは来年2月公演でピアノソナタ2番を演奏予定。
新旧(敬意をもって)最強ピアニストの聴き比べができれば贅沢ですね。

いやー。これは個人的に大きな経験でした。

憧れのピアニストとの対面、年月の流れと人間の変化、
いろんなドキドキ・モヤモヤを全て抱擁してくれる芸術の力・ツィマーマンの深みを痛感。

個人的に控える人生の大イベントに向けて、心が整理された気がします。

冒頭でも書いたとおり、
現代最強のピアニストも、現役生活そう長くないかもしれません。
みなさま、機会があればぜひ足を運んでいただきたいなと思います。

さいごの最後に!!

休憩明けのドビュッシーで、携帯電話の音が、2回も鳴ったのが残念でした、しかも10秒くらい!今回ツィマーマンは何食わぬ顔で演奏続けてくれましたが、怒って中断するアーティストの話も聴きます。

演奏者、他の観客双方に迷惑ですし、
何より焦って心を乱
損をするのは、音を鳴らしてしまった本人だと思います。
特に休憩後は盲点だったりすると思うので、お互い気を付けて楽しみましょう!

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