こんにちは。いりこです。
2024年9月25日(水)ロイ・トムソン・ホール(トロント)にて行われた、グスターボ・ヒメノ(指揮)×トロント交響楽団の公演に行ってきました。2月ぶりの生コンサート♪
▼TTC地下鉄セント・アンドリュー駅 (St Andrew) 直結で、CNタワーのすぐ近く





会場にはカナダ出身のピアニスト、グレン・グールドのピアノが置いてあります。
晩年の「ゴルトベルク変奏曲」の収録に使用したそうです!
演奏者
グスターボ・ヒメノ(指揮)×トロント交響楽団
トロント交響楽団と音楽監督グスターボ・ヒメノさん。
ヒメノは名門コンセルトヘボウの首席打楽器奏者の出身で、
指揮者に転向後はオランダを中心に活躍、2020年からトロント交響楽団の音楽監督を務めています。
トロント交響楽団は、かつて小澤征爾さんが指揮したこともある、100年以上の歴史をもつオーケストラ。
トロントという街を体現するかのような、多様な音を持ちながらまとまりのいい音を出す素敵なオケです。
注目の若手ピアニスト:ヤン・リシエツキ
ベートーヴェンの三重協奏曲では以下のソリストも参加します!ピアニストのヤン・リシエツキさんは気になっていた若手ピアニスト!ショパンの作品のレコーディングも多く残しています。
ヴァイオリンとチェロには、トロント交響楽団員から、コンサートマスターのジョナサン・クロウとジョセフ・ジョンソンが登場!


プログラム/チケット情報
2024年9月25日(木) 20:00開演 ロイ・トムソン・ホール(トロント)
プログラム
- サイモン:起き上がれ!オーケストラのための協奏曲
- ベートーヴェン:三重協奏曲
- ムソルグスキー – ゴルチャコフ編:組曲「展覧会の絵」
サイモンはアメリカ生まれのクラシック作曲家。この「起き上がれ!オーケストラのための協奏曲」はカナダで初演とのこと。
ソリスト3人を擁するベートーヴェン「三重協奏曲」
このような曲があることすら知りませんでした。注目の若手ピアニスト:ヤン・リシエツキも登壇とのことで、思わぬ収穫です!
本公演のメインは、ムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」
原曲はピアノ曲、オーケストラ版はラヴェルの編曲が有名ですが、今回はロシアのゴルチャコフが編曲したバージョン。「よりロシア的な音色を重視した」編曲とのことで、楽しみです。
サイモン:起き上がれ!オーケストラのための協奏曲
カナダで初演されるサイモンの “Wake Up! Concerto for Orchestra” は、ネパールの詩人ラジェンドラ・バンダリ(Rajendra Bhandari)の詩「Awake, Asleep」にインスパイアされた作品とのこと。
社会の中で無自覚に眠り続けることの危険性と、集団として目覚めることで得られる「豊かな思考の収穫」をテーマにしており、音楽で表現するためサイモンは二音のリズムモチーフを繰り返し使用し、オーケストラ全体が「目覚めよ!」と語りかけるような構成をとっています。
20分くらい、ちょっと長かった。。。
ベートーヴェン:三重協奏曲(ピアノ、ヴァイオリン、チェロと管弦楽のための協奏曲)
さて、お次はベートーヴェンのトリプル協奏曲こと「ピアノ、ヴァイオリン、チェロと管弦楽のための協奏曲」。
それにしても一体全体、ベートーヴェンはどうして3つの独奏楽器を使った協奏曲を作ろうと思ったんでしょう??当時流行していた「シンフォニア・コンチェルタンテ(複数の独奏楽器を持つ協奏曲)」の形式を発展させたようで、特にチェロに主要なソロパートを与えるという珍しい構成。当時チェロ協奏曲は少なく、ベートーヴェンとしても唯一のチェロを伴った協奏曲になりました。
なかなか類を見ない編成で演奏機会も少ないですが、それぞれの楽器がソロとして機能したり、デュエットを繰り広げたり、ソリスト全員でトリオを奏でたりと、無限の組み合わせが楽しめるおもしろい曲でした。
第3楽章はポロネーズのリズムに乗ってソリストたちが躍動するのですが、これがまたかっこいい!宮廷音楽の気品と軍隊的な力強さは鳥肌ものです。調べてみると終楽章は「ロンド・ア・ラ・ポラッカ」で「ポーランド風ロンド」とのこと。ポロネーズはポーランドの民族舞踊です(ショパンでお馴染みですね)。
ベートーヴェンにしては、しかも「熱情」なんかが書かれた時期にしては古典的でおとなしめの曲調ですが、オーケストラと各ソロ楽器が手を取り合って調和し展開する、上品かつダイナミックな曲です。

ピアニストのヤン・リシエツキさんは、実はずっと聴いてみたいピアニストのひとりでしたので、このチャンスに聴けてよかったです!滑らかで素晴らしい音色でした。
ポーランド系カナダ人(お名前がザ・ポーランド!)のリシエツキは、ショパンの「モーツァルトの『ドン・ジョヴァンニ』の『お手をどうぞ』による変奏曲」(ブルース・リウが2021年ショパン国際コンクール第3次予選で演奏し話題になりました)をオーケストラと録音していたので知りました。こちらもピアノソロとはまた違いスケールの大きい名演です!
ムソルグスキー – ゴルチャコフ編:組曲「展覧会の絵」
カナダ人の友人とこの「展覧会の絵」の話をしたことから実現した、今回の久々にコンサートに行こう企画。原曲はピアノソロ用の曲で、30分以上に及ぶ超大作。ピアノコンクールでも演奏される難曲です。
第1プロムナード
1.小人(グノーム)
第2プロムナード
2.古城
第3プロムナード
3.テュイルリーの庭(遊びの後の子どもたちの口げんか)
4.ビドロ(牛車)
第4プロムナード
5.卵の殻をつけた雛の踊り
6.ザムエル・ゴルデンベルクとシュムイル
第5プロムナード
7.リモージュの市場
8.カタコンベ(ローマ時代の墓)- 死せる言葉による死者への呼びかけ
9.鶏の足の上に建つ小屋(バーバ・ヤガー)
10.キーウ(キエフ)の大門
まず、アイデアが非常にユニークです。
親友であり建築家・画家であったヴィクトル・ハルトマンの死後、彼を追悼する展覧会を訪れたムソルグスキーが、その絵画からインスピレーションを受けて作曲したピアノ組曲です。展覧会の各作品を巡るような構成となっていて、各曲の間に「プロムナード(散歩・散歩道)」が挿入され、観覧者(作曲者自身)の心情の変化を表現しています。
この「プロムナード」がこの組曲の肝で、なんとも表現し難い響き・意味合いをもっています。長調で明るく、歩くような快活なテンポで、ムソルグスキーが巡回している情景が浮かんでくるのですが、コロコロと拍子が変わる掴みどころのないリズムに、ムソルグスキーの足取りの重たさ、親友との思い出・過去に引っ張られる感じが、絶妙に表現されています。曲集中では短調で挿入される場面もあります。
そして、たしかに30分と長いのですが、全15曲、魅力的なメロディーが次々に飛んでくるので飽きる暇がありません!何といっても終曲「キーウ(キエフ)の大門」は圧巻ですし、曲の中でプロムナードのメロディーが再現され、親友の死を乗り越えていく力強さを感じます。
こんな名曲ですから、オリジナルのピアノ組曲の他にも多くのオーケストラ編曲が存在します。有名なのはモーリス・ラヴェルによる1922年の編曲ですが、今回演奏されたのは、1954年にロシアの作曲家セルゲイ・ゴルチャコフが編曲したもの。
ゴルチャコフ版は、ラヴェル版のフランス印象派的な響きとは異なり、よりロシア的な音色を目指した編曲とのことで、低弦や金管を活かした深みのある響きが特徴で、オーケストレーションの各パートを際立たせることで、ムソルグスキーの原曲に忠実なアレンジとなっています。
・・・
演奏を聴いてみて、ピアノ版ばっかり聴いていたので、正直ラヴェル版との違いみたいなものはよく分かりませんでした(笑)。
プロムナードは、ピアノ版の方がシンプルで、一人で親友との記憶に浸りながら歩いている感じがして沁みるので好みです。
しかし、やはり絵画的イメージは、様々な音色を持つオーケストラでの再現度が高いので楽しめます。特に終曲の「キーウの大門」なんかは、オーケストラの迫力が圧倒的でした。
観客のみなさまもスタンディングオベーションで大盛り上がりでした。
会場には粋な展示が!
「展覧会の絵」が、ハルトマンの展覧会を歩いていることに着想を得ていることにちなんで、各曲のモデルとなった絵とその説明が並べられていました!
▼ハルトマン(左)と2つめの絵「古城」
「中世ヨーロッパの古城で吟遊詩人が歌う歌」が流れる物悲しいメロディが魅力。


▼9つ目「鶏の足の上に建つ小屋 – バーバ・ヤガー」(左)と
終曲「キーウ(キエフ)の大門」(中、右)
ドラマチックなフィナーレを飾る重要な2曲です。



さいごに
長々と書いてしまいましたが、お読みいただきありがとうございました。昨年9月のコンサートを、年をまたいで記事に起こすという体たらくぶり(笑)
このコンサートは、約7カ月ぶりの生演奏となりました。やはり祖国とは勝手が違いバタバタしていたカナダ生活のなか、オアシスのような癒される体験でした。
生活に余裕があるから音楽を聴くのか、音楽を聴くから余裕が出てくるのか、、、筆者にとっては後者だと痛感。音楽、聴いていこうと決意したのでした。
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