こんにちは。いりこです。
5月16日(土)北九州市立響ホールにて行われたチョ・ソンジンのピアノソロ公演に行ってきました。
公演に行かれた方とも、行かれてない方とも、この感動を共有できたら嬉しいです。
2015年ショパンコンクール第1位 チョ・ソンジン
2015年、第17回ショパン国際ピアノコンクールで第1位に輝いた、韓国出身、1994年生まれのピアニスト。【ポロネーズ賞】も同時受賞しています。
韓国勢として初のショパン優勝、アジア勢としてもダン・タイ・ソン(1980年)、ユンディ・リ(2000年)に続く3人目。さらに2009年の浜松国際コンクールでも優勝しており、小説「蜜蜂と遠雷」のモデルの一人としても語られる、まさに時代を象徴するピアニストです。
2015年大会では、弱音や細かな音符の処理は滑らかに、大曲には大きなスケールで臨むバランス感覚、そして「Mr.パーフェクト」と称されるほぼノーミスの完成度で、王道を堂々と突き抜けて優勝を勝ち取りました。
▼2015年ショパンコンクール振り返り記事はこちら
筆者にとって、ソンジンの実演はこれが3回目。
1回目は2022年10月、奇しくも同じ北九州で、サイモン・ラトル指揮ロンドン響との「ラフマニノフ:パガニーニ狂詩曲」。当ブログを始めて最初に行ったコンサートでもあります。優等生的なイメージから一転、スリリングでド派手なラプソディ、そして18変奏のあの夢のような時間に涙腺が崩壊。「Mr.パーフェクト」の呼び名を完全に信じることになった一夜でした。
2回目は2023年6月、文京シビックホールでの山田和樹×バーミンガム市響、ショパン:ピアノ協奏曲第2番。息をするように自然に溢れるロマンティシズム。
そして今回が満を持して、筆者はじめての「ピアノソロ公演」!
▼公式HP
https://www.seongjin-cho.com/
プログラム/チケット情報
公演情報:北九州市立 響ホール
2026年5月16日(土) 15:00開演(14:00開場)
北九州市立 響ホール(福岡県)
プログラム
- J.S.バッハ:パルティータ 第1番 変ロ長調 BWV825
- シェーンベルク:ピアノ組曲 Op.25
- シューマン:ウィーンの謝肉祭の道化 Op.26
- ショパン:ワルツ(14曲)
注目はなんといっても、筆者がハマってい(て密かに練習してい)るバッハの「パルティータ1番」!変ロ長調というのがなんとも神秘的、各曲聞き飽きない名曲です。
そしてなんといっても後半はショパン:ワルツ14曲、ショパンコンクール王者がワルツでどう物語を紡ぐか、まさに大団円です。
チケット
S席:9,000円
A席:7,000円
25歳以下(A席):3,500円
J.S.バッハ:パルティータ 第1番 変ロ長調 BWV825
バッハの6つのパルティータの第1曲。
プレリュード/アルマンド/クーラント/サラバンド/メヌエット I・II/ジーグ
の全6曲からなる組曲です。バッハの鍵盤作品の中でも親しみやすく神々しい、特にプレリュードとサラバンドは涙なしには聴けないほどただただ美しい。
ソンジンくんは過去2回のアンコールでヘンデル「調子の良い鍛冶屋」を超高速で弾いていたイメージが強かったので、もっと飛ばすかと身構えていましたが、全体通してテンポは意外と控えめで安心感。テンポはじっくりながら、装飾はかなり多めで彼ならではの味付けでした。
ただ、ペースは控えめでも凄まじいのが情報量。プレリュードからすでに、3声のすべての隅から隅まで意識が張り巡らされているのが伝わってきて、発見の連続。もう、ひれ伏すしか無いって感じ。。。
そして2曲目アルマンドから気づいたのが、ペダルがゼロ!それ以降もずっとペダルなしで進めていきます。特に第4曲のサラバンド、あれだけ息の長いゆったりした曲がノーペダルでどうしてあんなにまとまるのやら。。。1番プレリュードも、もしかしたらノーペダルだったのかも??
全体を通して左手の低音が主軸になっていたのも印象的。左利きかな?と思うくらい、ベースラインがメロディを超える熱量で現れます。バッハの多声を弾くときのひとつの解だなあと、勉強にもなりました。
筆者はちょうど今このパルティータ第1番を練習中で、録音で予習してから臨んだのですが、トップレベルで好きな演奏でした!あえて言うなら、装飾を抑えたバージョンも聴いてみたいかも。
シェーンベルク:ピアノ組曲 Op.25
シェーンベルクは長調・短調を超えた「十二音技法」で知られる近代の作曲家、ピアノ組曲 Op.25は、その技法で書かれた初の本格作品でありながら、形式はバロックの組曲(プレリュード/ガヴォット/ミュゼット/間奏曲/メヌエット/ジーグ)の枠組みに12音を流し込んでみせるというなんとも知的な作品。
筆者は相変わらず無調的な音楽はどう聴けばいいのかわかりませんでした、笑。
ただ演奏姿がアグレッシブで、時代が違うから当たり前とはいえ、バッハのときと人が変わったようでした。
シューマン:ウィーンの謝肉祭の道化 Op.26
1839年、シューマンがウィーンに滞在していた時期の作品。「謝肉祭(Op.9)」と紛らわしいですが別作品で、全5楽章(アレグロ/ロマンツェ/スケルツィーノ/間奏曲/フィナーレ)からなる大曲です。
ウィーンでは検閲のため掲載できなかった「ラ・マルセイエーズ」を冒頭にこっそり忍ばせているのが有名なエピソード。当時のウィーンの空気と、シューマンらしい幻想・情熱が同居する作品です。
シューマン、いいですねえ。
あくまでも合理的なショパンと比べると、こちらは少し感情的に不安定でグァーッと熱が上がる感じが結構あって、ソンジンの「ど真ん中で勝負する」スタイルに意外と合っていると感じました。
そしてシェーンベルクとはまた違う、オーケストラのような分厚い音が鳴り響いていました。シューマンが理想とした「歌うピアノ/鳴るピアノ」が、まさにこういう音だったのでは…と思わせる重厚な響き。そしてさすがの技術力で、強奏部分でも音が決して濁らないんですよねえ。
ここまで聴いてみて気づいたのですが、前半の3曲はバロックの様式に沿った流れになっていたみたい。バッハのパルティータ(組曲)→ シェーンベルクのピアノ組曲(同じく組曲)→ シューマンの「ウィーンの謝肉祭の道化」(多楽章の幻想曲)と、組曲・多楽章のフォーマットを200年で辿る構成。これは深い。
ショパン:ワルツ全14曲
ショパンのワルツ全14曲は、生前出版された8曲(Op.18/Op.34-1,2,3/Op.42/Op.64-1,2,3)に、遺作の6曲(Op.69-1,2/Op.70-1,2,3/Op.posth)を加えた構成です。
ショパンのワルツは、「踊るためのワルツ」というより「ワルツのリズムを借りた小さな物語集」。「小犬のワルツ」「華麗なる大円舞曲」のように耳馴染みのある曲から、繊細な遺作群まで、ショパンの感情の振れ幅を一気に味わえる構成です。
そして実際に始まってみたら、、、
これは決定盤!すぐさまリリースしてほしい!
ショパンに憧れるお子様から、魚の肝や苦い山菜のおいしさが分かってきた大人まで、全員に刺さるワルツ全集になるはず!
2025年の第19回ショパン国際ピアノコンクールでは、第1ステージの課題曲としてワルツが指定されました。若手たちが弾き比べる中で見えてきた多種多様な解釈の先に、今回ここで優勝者本人による「一つの正解」が提示されたわけですね。
アレンジの多かったバッハ、オーケストラのように鳴り響いたシューマンと比べると、端正で礼儀の良い演奏。あくまでワルツという三拍子からは外れず、ずーっと浸っていたい心地よさでした。
第14番(遺作)から始まる、独自構成
順番は、第14番 ホ短調(遺作)からスタートするソンジン君による独自構成。
そこから長調・短調、軽快・憂鬱が入り混じる、絶妙なプログラム順で進んでいきました。
Op.69-1「告別」中間部の凄み
個人的にぐっと来たのが、第9番 変イ長調 Op.69-1「告別」の中間部。
3度の重音で進んでいくところを、超弱音のなかでバランスを取りながら歌っていく。例えば最初のD♭が連続で押されるところ、一音目は下で、二音目が上でメロディを取るみたいな、そういう細かいことを当たり前のようにやりながら、あの明るくも憂鬱でもあるニュアンスを保ち続ける。これ、ただ事じゃない気がしちゃいます。
そしてその後の、超自然でさりげない、かつ幅の広いクレッシェンド。。。
ここに来て、ショパコン王者・Mr.パーフェクトを改めて感じました。
最後の3曲、そして「華麗なる大円舞曲」で締め
そしてそして、長いトリルから始まる第5番 変イ長調 Op.42からの最後の3曲!
規模も大きく、技巧的で華やかな盛り上がり。終わりが近づいた寂しさを上回る高揚感は、もうえぐい。
最後の最後は、いわゆるワルツ第1番「華麗なる大円舞曲」Op.18!
コーダ前、左手だけでワルツを刻むところで、ウィンナーワルツのように2拍目が前に出ていたのが最後の最後で小粋!憎い!
これまで礼儀正しく4方向にお辞儀してくれていたものの、表情はずっとスンとしていたソンジン。最後はすこし笑みが見えたように思いました!
アンコール曲
- グリュンフェルト:ウィーンの夜会 Op.56
過去2回の公演(2022・2023)ではアンコールでヘンデル「調子の良い鍛冶屋」でしたが、今回は違うピース!
アルフレート・グリュンフェルトの「ウィーンの夜会」Op.56。J. シュトラウス2世の「こうもり」のテーマによるパラフレーズで、サロン的で華やかな超絶技巧ピースです。
なんと!最後のワルツ第1番でこっそり仕込まれていた「ウィンナーワルツの2拍目強調」が、そのまま布石だったかのような選曲!
そしてなによりの超絶技巧!!
「ショパンやシューマンでは腕がなまる」とでも言わんばかりの鮮やかなアンコールピースでしたねー。しかも当たり前のように音を外さないという。。。
彼に「超絶技巧バリバリ系」のイメージはあまり持っていなかったのですが、こっちの線もいけちゃうの?! 奥行き広すぎない???
チョ・ソンジンのおすすめ音源
ショパン・コンクール・ライヴ2015
優勝した2015年のショパンコンクール実況録音。「Mr.パーフェクト」の原点がここに詰まっています。
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ショパン:ピアノ協奏曲第2番・スケルツォ(2021年)
2021年リリース、ノセダ指揮ロンドン交響楽団とのショパン:ピアノ協奏曲第2番に4つのスケルツォを併録。10年ぶりの再録音となる「ショパン弾き」の到達点を示す一枚。
【楽天リンク取得待ち:ショパン:ピアノ協奏曲第2番・スケルツォ/チョ・ソンジン(2021年、DG)】
ラヴェル:ソロ・ピアノ作品全集
ラヴェル生誕150年(2025年)に合わせてリリースされた、ソロ・ピアノ全曲2枚組。「夜のガスパール」「鏡」など主要曲を網羅した、フランスもののソンジンを聴ける決定盤。
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ラヴェル:ピアノ協奏曲(ネルソンス×ボストン響)
ラヴェルのピアノ協奏曲ト長調・左手のためのピアノ協奏曲を、アンドリス・ネルソンス指揮ボストン交響楽団との共演で。協奏曲ソリストとしての現在地がよく分かります。
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さいごに
最後までお読みいただきありがとうございましたm(_ _)m
「Mr.パーフェクト」のイメージそのままに、端正で礼儀正しいピアニストでありながら、今回のリサイタルで分かったのは、奥行きの広さ。
シューマンでのオーケストラのような分厚さ、ワルツの最後にしのばせた「ウィンナー風2拍目」のチャーミングさ、アンコールの超絶技巧、、、それぞれが別の引き出しから出てきた感じで、終始驚きの連続でした。
そしてやっぱり、ショパンのワルツ全14曲は決定盤級。
これがCDで聴けない日々が続くのは耐えがたいので、ドイツ・グラモフォン様、レコーディングのご検討を切に願います。。。!
今年は1月にブレハッチ、5月初旬にゲニューシャスとショパンコンクール上位入賞者の公演が続いていて、ブレハッチ(2005年第1位)、ゲニューシャス(2010年第2位)に続いて、2015年第1位のソンジンまで聴けるという贅沢なラインナップ。生で聴き比べる機会はそうそうないので、嬉しい一年です。













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