こんにちは。いりこです。
5月3日(日・祝)東京国際フォーラムにて行われた、ルーカス・ゲニューシャスのピアノソロ公演に行ってきました。GW恒例の音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ TOKYO 2026」の公演です。
公演に行かれた方とも、行かれてない方とも、この感動を共有できたら嬉しいです。
2010年ショパンコンクール第2位 ルーカス・ゲニューシャス
2010年第16回ショパン国際ピアノコンクール、弱冠20歳にして第2位に輝いた、ロシア=リトアニア系のピアニスト。
このピアニストとの出会いは、ほんとうにたまたま。
友人の勧めでユリアンナ・アヴデーエワのファンになり、トロントでダニール・トリフォノフの演奏に圧倒され、この2人の共通点である2010年ショパンコンクールにたどり着いて、「アヴデーエワ(1位)とトリフォノフ(3位)の間に食い込んでいる演奏とはどんなもんか見てやろう」と、けんか腰で聴き始めたのがきっかけでした、笑。
結果は、見事に返り討ち!ベタハマりしました。
落ち着いた響き、かっちりした構成力、時折挟み込まれる若いパッション。個性派揃いの上位陣の中で最も「正統派」な演奏で、「ショパン弾きを発見する」というこのコンクールの方向性にもピッタリだったと感じます。
さらにすごいのは、2015年のチャイコフスキー国際コンクールでも第2位に輝いている点。ショパンとチャイコフスキー、性格の異なる2大コンクール両方で上位入賞を果たすピアニストはなかなかいません。スタイルの幅広さと完成度の高さがうかがえます。
▼2010年ショパンコンクールの記事はこちら
筆者は2025年4月、広島で初めて触れています。ブラームスの協奏曲第1番。あの難曲を「軽々と」弾いてみせるテクニック、そして要所で炸裂する太い低音と、なんとも自然体な好青年っぷりがとても印象的でした。
▼前回の公演記事はこちら
【2025.4.12】ルーカス・ゲニューシャス×クリスティアン・アルミンク×広島交響楽団 公演感想 @広島文化学園HBGホール
そして最近の話題は、なんと言ってもラフマニノフ:ピアノソナタ第1番、しかもなんと未出版手稿譜による「オリジナル版」で世界初録音のCD。単なる名手にとどまらず、知的な探究心を併せ持つゲニューシャスの意欲が伝わります。
プログラム/チケット情報
2026年5月3日(日・祝) 13:45開演
東京国際フォーラム
プログラム
- ビゼー:ラインの歌
夜明け/出発/夢/ジプシー女/打ち明け話/帰還 - ショパン:練習曲
ハ長調 Op.10-1/変イ長調 Op.25-1「エオリアン・ハープ」/ハ短調 Op.25-12「大洋」 - ラヴェル:「鏡」 より 「悲しい鳥たち」/「海原の小舟」/「道化師の朝の歌」
2010年ショパンコンクールで全曲演奏やってのけたショパンのエチュード Op.25に、ラヴェルの「鏡」!特に「海原の小舟」と「道化師の朝の歌」はラヴェルのピアノ作品の中でも特に好きな2曲をまとめて聴けるのは贅沢の極みです。
チケット
¥2,900
お手頃価格で世界の一流演奏家を聴ける贅沢なイベント。コンクール上位入賞のピアニストをこの値段で聴けるのはありがたい限りです。
ただ、、、、
本日の会場は小さな会議室のような小規模スペース。
ご覧のとおり100席ちょっと。これ、発売初日ですら少し出遅れると売り切れてましたよね???追加販売にはりついてなんとか取ることができました。こんな席数に収まるピアニストじゃない!!!
とはいえ、小さい会場ならではの、筆者の席からなんとピアノまでわずか10mほど!
ゲニューシャスの手元や眼差し、ペダルを踏む足音まで届いてきそうな、ありえない至近距離での贅沢な生演奏でした。トレードオフです。。。

ビゼー:ラインの歌
夜明け/出発/夢/ジプシー女/打ち明け話/帰還
「カルメン」や「アルルの女」で知られるフランスの作曲家ビゼー。
恥ずかしながらピアノ曲は全く知らなかったのですが、20代後半に書き上げたピアノ曲集で、ライン河畔の情景や伝説をモチーフにしています。あまり聴く機会のないレパートリーで、これも嬉しい選曲。
印象的だったのが、終曲「帰還」、ノリノリのゲニューシャス、体を揺らしながら弾いている姿がなんともかわいらしい。演奏者本人が楽しんで弾いている曲って、聴く側もテンション上がります。
その他6曲とも素朴ながら奥行きのある曲。
それにしても、こちらが意識しないようなところにゲニューシャスは気を使っていて、違うものが見えて/聴こえているんだなあという発見がありました。
ショパン:練習曲 より
ハ長調 Op.10-1/変イ長調 Op.25-1「エオリアン・ハープ」/ハ短調 Op.25-12「大洋」
ショパンの練習曲集は、Op.10とOp.25の2集、各12曲ずつ計24曲。”技巧の鍛錬曲”を芸術作品として昇華させた大発明です。
2010年ショパンコンクールでOp.25を全曲弾いてみせたのを鮮明に覚えているのですが、ここ、暗譜で挑むあたりがアツい!
正直、テクニックで見れば最近のコンテスタントのほうが上手な人はいるかもしれません。ただ、この至近距離にもかかわらず音色のやわらかさったら。。。「エオリアン・ハープ」も「大洋」も、目まぐるしく動く音型のなかから、温かく深いメロディがシルクのような耳触りで浮かび上がってくるんですねえこれが。ただただ心地よい。
特に静かに、ぽつり、ぽつりと始まる「大洋」。あの瞬間、2010年のコンクールで受けた衝撃が、そのまま目の前で再現された感覚でした。
ラヴェル:「鏡」より
「悲しい鳥たち」/「海原の小舟」/「道化師の朝の歌」
ラヴェル30歳前後の作品「鏡(Miroirs)」は、5曲からなるピアノ曲集。
プログラムの記載と違って、実際の演奏順は「2.悲しい鳥たち」→「3.海原の小舟」→「4.道化師の朝の歌」と、原作どおりで個人的にはホッとしました。
「悲しい鳥たち」、森の重たい空気にしっとりと孤独感の漂う1曲。
そこからの「海原の小舟」。(「1.蛾」から)「2.悲しい鳥たち」までのもやもやから、パッと視界が開ける感覚(ここが好きなのでこの順番でよかった!)、気がつけば自分が海の上に放り出されて、波に揉まれている、そんな感覚に陥ります。
そしてトリは「道化師の朝の歌」。スペインの情緒を帯びた快活な1曲。同音連打や重音グリッサンド、トリッキーなリズムなど超絶技巧が並ぶ難曲ですが、さすがゲニューシャス。
全体的に個性的な解釈だなあという感じでしたが、なんでしょうね、音色と高い技術と、とにかく説得力があります。
この曲がトリでほんとに正解!そしてこの曲前に楽譜をパタンと閉じたのがこれまた胸アツでかっこよかったです。
アンコール曲
- ラフマニノフ:絵画的練習曲「音の絵」 Op.33-2 ハ長調
アンコールはラフマニノフ。やはりラフマニノフは特別な作曲家なんでしょうか、出だしから余裕の佇まい、まさに弾き慣れた感じが圧巻でした。
執拗に繰り返される鐘のようなモチーフに、じわじわと緊迫感が立ち上がってくる。
直前まで和やかなムードに浸っていたのに、一発で真冬の寒空の下に放り出されたような世界観の転換。
技術云々より、この世界観こそゲニューシャスって感じでしたね、最後まで。
・・・あとはこの曲「ハ長調」扱いという発見、今まで気づきませんでした。
ゲニューシャスのおすすめ音源
まずは前述の最新譜、ラフマニノフ:ピアノソナタ第1番〈オリジナル版〉。ラフマニノフ自身が改訂前に書いた手稿譜版による録音で、ゲニューシャスの真骨頂が味わえる一枚です。
それから、なんといっても2010年ショパンコンクールは通して聴いてみてくださいね!
思えばこのときから20歳とは思えない、自己理解が深いオトナな演奏。
さいごに
最後までお読みいただきありがとうございましたm(_ _)m
ゲニューシャスといえば「クール」「正統派」というイメージを持っていたのですが、今回の生演奏で印象がアップデート。どちらかというとマルティン・ガルシアに近い空気感を感じました。
絶対的な音楽観を持っていて、しかもそれがまったく嫌味でない。「ちょっと練習してきたから聴いてー」くらいの自然体で、そこからとんでもなく一流の音が流れてくる感じ。
あと完全に余談ですが、髪型が定まらないのがロシア人ピアニストあるある?笑
今回はサムライ風スタイルで、体格もふくよかになっていて、なんとも愛らしいビジュアルでした。お辞儀とか笑顔の感じからも好青年が滲み出ていました。
そしてなにより、筆者にとって生で初め聴いた曲ばかり。とくにショパンの練習曲やラヴェルの「鏡」は、子供の頃から録音で親しんできた愛着の深い曲たち。これらを目の前の至近距離で、しかも推しのゲニューシャスで聴けたのは、何ものにも替えがたい経験でした。
ラ・フォル・ジュルネは3日間にわたって行われ、ゲニューシャスはこの期間毎日登場!協奏曲・ヴァイオリンソナタとバラエティ豊かな3公演を披露してくれます。





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