こんにちは。いりこです。
2026年7月、日経新聞にこんなニュースが載っていました―IOC(国際オリンピック委員会)が、2028年のロサンゼルス五輪で、ロシア選手の参加制限を撤廃する方向へ動き出した、と。
スポーツのニュースですが、クラシック好きの筆者が真っ先に思ったのは別のことでした。
「じゃあ、音楽のコンクールはどうなっているんだろう?」
2022年以降、ロシアの音楽家をめぐる話題は何度もニュースになってきました。ロシア作品のボイコット、世界3大コンクールの国際組織からの除名、指揮者やオペラ歌手の公演中止……。
では、若いピアニストが世界の登竜門に挑む道は、いま実際どうなっているのか?五輪のニュースを入口に、いち愛好家の視点で追いかけてみました。
この記事でわかること
- 五輪でロシア選手の扱いがどう決まったか、その背景(新聞から)
- ロシア人ピアニストは、いま国際コンクールに出られるのか(ショパン・ルービンシュタインほか大会別の実際)
- 除名されたチャイコフスキー国際コンクールの現在地
ちなみに今回の話は、日経で一連の記事になっています。
・日本経済新聞 2026年7月8日「28年ロス五輪のロシア参加制限撤廃」
・日本経済新聞 2026年7月9日「ロシア復帰、「五輪を守る」IOCの決断」
・日本経済新聞 2026年7月10日「国際バレーボール連盟 ロシアへの制限撤廃」
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五輪で決まったこと(新聞の範囲でざっくり)
まずは新聞が伝えたことを、簡単におさらいします。
IOCは、2028年ロサンゼルス五輪で、ロシア選手の参加制限を撤廃する方向へ動き出しました。舵を取るのは、2025年に就任したコベントリー会長です。
ポイントは「連帯責任」の見直しです。これまでは国としての立場を理由に、選手個人までまとめて制限する形でした。パリ2024大会では、ロシアの選手は国の代表としてではなく「個人資格の中立選手(AIN)」としてのみ、しかも個人種目に限って参加が認められ、団体競技には出られませんでした。
その流れがいよいよ変わり、2028年のロサンゼルス大会が節目になると見られています。競技団体のなかにはすでに動き出したところもあり、国際バレーボール連盟(FIVB)はロシアの世界ランキングへの復帰を認めました。
以上が、新聞が報じた範囲です。ここから先は、音楽の話。
音楽界は2022年以降どうだったか
スポーツの世界がこう動く一方で、クラシック音楽の世界は2022年からどうだったのか。実はこちらも、けっこう揺れてきました。
組織はある大会を「除名」した。でも、個人は別
世界の主要な音楽コンクールが加盟する組織に、WFIMC(世界国際音楽コンクール連盟)があります。ショパンや浜松、エリザベートといった名門も名を連ねる、いわば「コンクールの国際的なとりまとめ役」です。
このWFIMCが2022年4月、加盟していたチャイコフスキー国際コンクールを除名しました。ロシアで開かれる大会そのものを、連盟のリストから外したわけです。
ただ、同じ声明のなかでWFIMCははっきりこうも述べています。
「特定の国籍を理由に、個人の音楽家を差別することには反対する」と。
大会という「器」への対応と、そこに挑む「個人」への対応。組織はこの2つを、きっぱり分けて考えている。この線引きが、じつはこのあとの話をぜんぶ貫くカギになります。
指揮者・歌手への影響は、人によって違う
演奏家個人への影響は、ジャンルや人によってかなり差があります。
たとえば指揮者のワレリー・ゲルギエフ。2025年にイタリア・カゼルタで予定されていた公演は中止になりました。ロシアを代表するピアニストデニス・マツーエフも、西側の主要な舞台への復帰はいまだ実現していません。
一方で、ソプラノのアンナ・ネトレプコは2025年、ロンドンのロイヤル・オペラ・ハウスに復帰しています。
同じ「ロシアの大物」でも、対応は一様ではありません。ここでも「一律ではなく、個別」という原則が見えてきます。
本題:コンクール別の実際の扱い
さて、ここからが本題。若いピアニストが挑む国際ピアノコンクールでは、ロシア人はいま実際どう扱われているのか。
先に結論をざっくり言うと、いまの主要コンクールの多くは、ロシア人ピアニストを通常どおり受け入れています(大会ごとの一覧は後述します)。ただ、その受け入れ方には温度差があって、なかにはかなり慎重な対応をとった大会もありました。
まず取り上げたいのが、直近に開かれた2つの主要大会です。2025年秋のショパン国際と、2026年のルービンシュタイン国際。世界でもトップクラスの権威を持つこの2大会が、じつはまったく対照的な対応をとりました。ここが今回いちばん面白いところなので、先にじっくり見ていきます。
ショパン2025は「中立ピアニスト」方式(ロシアから2名)
もっとも五輪に近い形をとったのが、2025年秋のショパン国際ピアノコンクールでした。
ここでロシア(およびベラルーシ)のピアニストは、国を背負った形ではなく「個人資格の中立ピアニスト」として参加しました。出場にあたっては、戦争を支持しないといった内容の宣誓書への署名も求められています。
おもしろいのは、主催者側がこの方式を説明する際、まさにオリンピックの中立選手(AIN)の枠組みになぞらえていたこと。スポーツで先に生まれたルールが、音楽の最高峰の舞台にそのまま応用された形です。
2025年大会では、この中立ピアニストとしてロシアから2名が出場しました。「ロシア代表」ではなく「中立の個人」として舞台に立つ。冒頭でWFIMCが示した線引きが、そのまま形になった一例です。
ちなみに、ショパンコンクールを主催するのはポーランド。ウクライナと国境を接する隣国です。ロシアをめぐる問題に、ほかの国以上に敏感にならざるを得ない立場とも言えます。もっとも慎重な「中立方式」を選んだのも、その位置関係を思うと頷ける気がします。(あくまで筆者の受け止めですが。)
ルービンシュタイン2026は「ロシア」表記のまま通常受け入れ
対照的だったのが、2026年に開かれたアルトゥール・ルービンシュタイン国際ピアノコンクールです。
こちらはショパンのような「中立」扱いをとらず、出場者は「ロシア」の国籍表記のまま、通常どおり受け入れられました。報道によれば、ロシアのピアニストが複数、ファイナルまで勝ち進んでいます。
興味深いのは、この大会の開催地がイスラエル(2026年は一部ドイツでも開催)だということ。当ブログのまとめ記事でも、出場者はふつうに「ロシア」と国籍を明記しています。
五輪になぞらえた中立方式のショパンと、国籍表記そのままで迎え入れたルービンシュタイン。ほぼ同じ時期に開かれた最高峰どうしで、ここまで対応が振れる。「コンクール界としての統一ルール」があるわけではない——これが今の実態です。
ほかの大会は、おおむね通常どおり
では、それ以外の大会はどうか。結論から言うと、多くの大会はロシア人を通常どおり受け入れています。
- ヴァン・クライバーン国際(2025・アメリカ):ロシアから複数名が出場。
- 浜松国際(2024・日本):「ロシア」表記のまま複数名が出場。
- ブゾーニ国際(イタリア):ロシア出身のピアニストが上位に入賞した回もあります。
- リーズ国際(イギリス)、クララ・ハスキル国際(スイス)、モントリオール国際(カナダ)なども、国籍を理由に締め出す規定は確認できませんでした。
- エリザベート王妃国際(ベルギー)にいたっては、要項に国籍による差別を禁じる条項が明記されています。
どの大会も判断の根拠を細かく公表しているわけではありません。それでも、「ロシア国籍だから一律で出られない」という状況ではない、というのが実態です。
これから:チャイコフスキーコンクールは今も連盟の外
最後に、これからの話。
冒頭で触れた、WFIMCから除名されたチャイコフスキー国際コンクールは、2027年に次回大会(第18回)が予定されています。ただし2026年7月の時点で、この大会が連盟に復帰したという情報は確認できません。除名されたままの状態が続いています。
スポーツが動いた以上、音楽の世界も続くのか。気になるところですが、いまはまだ何とも言えません。確かなのは、チャイコフスキーコンクールが今も連盟の外にいる、という一点だけ。次の2027年大会に向けて、ここは静かに追いかけていきたいと思います。
まとめ:器と個人は、分けて扱われている
ここまで整理してみて、いちばんの発見はこれでした。
「大会という器」と「挑む個人」は、はっきり分けて扱われているということ。
WFIMCはロシアの大会を除名しつつ、個人への国籍差別には反対すると明言しました。実際の各コンクールも、ショパンのような中立方式から、ルービンシュタインや浜松のような通常受け入れまで、対応はバラバラ。ただ「ロシア人ピアニストだから、そもそも挑戦できない」という大会は、少なくとも今回調べた範囲では見当たりませんでした。
五輪のニュースから入って、たどり着いたのは音楽界の静かな現在地でした。若いピアニストたちが、これからも国境に関係なく舞台に立てますように。そんなことを思いながら、次のコンクールも追いかけていきます。
各コンクールの詳しいレポートは、こちらのまとめからどうぞ。
おまけ|日経新聞は無料で読めます
最後にひとつ。今回のロシアとオリンピックの話も、私は日本経済新聞 2026年7月10日の記事で知りました。世の中のニュースを入口に、こうして好きな音楽の世界とつなげて考えるのが、最近のちょっとした楽しみです。
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